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法情報提供(2026年1月掲載分)

18 時間前
読了時間: 128分

法情報提供(2026年1月掲載分)

対象:2026年1月に弁護士・高石秀樹(中村合同特許法律事務所)が公開した記事

収録件数:34件

<今月の見どころ>2026年1月 知財・法務アップデートの重要ポイント

今月のリーガルアップデートでは、分割出願の連鎖、控訴審での新たな無効理由、明細書の科学的誤り、クレーム解釈、国際裁判管轄、標準必須特許及び職務発明まで、知財実務の広い領域にわたる34件の裁判例・解説を取り上げる。重要な判断と実務上のポイントは、以下のとおりである。

1.分割出願の連鎖を揺るがす【車両誘導システム】事件<本多裁判長>

知財高判令和6年(行ケ)10086【車両誘導システム】事件は、第4世代当初明細書等で必要不可欠であった、ETCを利用できない車両を分岐レーンで戻し、その対象を通信可否により判定する構成に注目した。これを限定せず任意の基準・方法による誘導まで含めた第5世代分割出願は、新たな技術的事項を導入したものと判断された。その結果、特許法44条2項による出願日の遡及が否定され、第7世代の本件特許は原出願公開公報により新規性を欠いた。同日付の知財高判令和7年(ネ)10035【車両誘導システム】事件<本多裁判長>も、「一般車用出入口」と「誘導手段」を明細書に即して限定し、非充足とした。分割ツリーの各世代で、必須構成の削除や無限定な上位概念化を点検すべきである。

2.控訴理由書でも救われない時機後れ―【女性用衣料】事件<中平裁判長>

知財高判令和6年(ネ)10010【女性用衣料】事件は、控訴理由書で初めて提出された米国特許文献に基づく無効理由を、原審で主張でき、提出困難な事情もなかったとして時機後れとした。もっとも、被控訴人が予備的に反論し、控訴人が再反論しなかったため、訴訟完結を遅延させるとまではいえないとして無効論も判断した。控訴審の初動でも当然に許されるわけではなく、原審で予備的主張まで出し切る必要がある。また、【喫煙具用カートリッジ】事件<澁谷裁判長>は損害賠償請求権放棄後の不存在確認の利益を否定し、【映像視聴装置】事件<武宮裁判長>は、非充足を前提にAMAZONへの侵害報告を不正競争行為とした。請求・抗弁の提出時期と権利行使方法の双方に注意を要する。

3.明細書の科学的正確性と技術常識による補完の限界

東京地判令和5年(ワ)70114【自動二輪車のブレーキ制御装置】事件<柴田裁判長>及び控訴審<本多裁判長>は、補正後の横Gを導く唯一の式が次元の異なる物理量を減算し、物理学上意味を持たないとした。誤りの存在を理解できても訂正方法が一義的でなく、他の記載との不整合も生じるため、誤記の主張は退けられ、サポート要件違反となった。対照的に、知財高判令和5年(行ケ)10147【RNA依存性標的DNA修飾】事件<清水響裁判長>は、第1出願書類全体と出願時の技術常識から実質的開示を認め、優先権の利益を肯定した。技術常識は開示を補完し得るが、内容を一義的に確定できない誤記を作り直すものではない。数式、単位及びメカニズムの出願前検証が重要である。

4.クレーム文言、装置間の流れ及び発明の本質を精密に読む

知財高判令和6年(ネ)10012【Rバッジ、受信装置】事件<清水響裁判長>は、相手方の携帯電話に関する限定が受信装置自体の構造・機能を特定しないとして要旨認定から除外し、進歩性を否定した。他方、中間判決・知財高判令和6年(ネ)10034【弾塑性履歴型ダンパ】事件<本多裁判長>は、「入力」を特定方向の水平力に限定せず、一部製品の侵害を認めた。これに対し、【遠隔操縦無人ボート】事件は1つの制御装置が2条件を判断する構成、【予約管理装置】事件はサーバから印刷装置への直接送信、【買物決済システム】事件は画像を取得するカメラ、【ゲームシステム及びゲームプログラム】事件は2種類の数量を別々に記憶する構成を欠くとして非充足とした。処理順序、情報経路及び作用効果までの対応付けが、クレーム作成と侵害立証に不可欠である。

5.国境を越える権利行使、標準必須特許及び職務発明

大阪地判令和6年(ワ)2705【角度調整可能なヒンジ】事件<武宮裁判長>は、ドイツ及び中国の特許権の移転登録請求について、登録国の専属管轄を理由に日本の管轄を否定した。東京地判令和5年(ワ)70022『LEGAL FORCE』事件<髙橋裁判長>も、ウェブサイトが日本の需要者を対象としていないとして商標権侵害等の訴えを却下する一方、日本のドメイン名に関する管轄は認めた。大阪地判令和5年(ワ)7855【物理ハイブリッド自動再送要求指示チャネルのマッピング方法】事件<松阿彌裁判長>は、GOOGLEがFRAND条件でのライセンス意思を示し、対案も提示して真摯に交渉していたとして、SEPに基づく差止請求を権利濫用とした。【スピンドルモータ】事件は発明の核心への寄与を欠くとして共同発明者性を否定し、【物品搬送設備】事件は労働組合との協議、周知、意見聴取及び評価制度を踏まえて職務発明規程の合理性を認めた。

このほか、添付文書改訂を存続期間延長の対象となる処分と認めなかった【医薬組成物/存続期間延長登録】事件、特許法102条1項と3項で消費税相当額の扱いを分けた【止痒剤】事件、抽象的な注意条項から広範な免責を導かなかった【フルボ酸製造方法関連特許使用料】事件も重要である。本号の各判断を、出願、契約、訴訟及び社内制度の点検に活用されたい。

全記事の3行要約

区分

記事名・3行要約

特許

令和6年(行コ)10007【医薬組成物/存続期間延長登録】<中平裁判長>① 医薬品の添付文書の改訂が、特許権の存続期間延長登録の理由となる「処分」に該当するかが争われた事案である。② 投与速度は承認事項ではなく、PMDAの指示は行政指導にとどまり、添付文書改訂届も権利義務を変更する処分ではないとして、延長登録の対象外とされた。③ 特許法施行令2条2号の処分は限定列挙であり、明文のない添付文書改訂を類推解釈により延長登録の対象へ拡張できないことを示す事例である。

特許

令和6年(ネ)10076【起伏収容式仮設防護柵】<中平裁判長>① 被告製品の四角いパイプ状の支柱である「角筒管」が、特許発明の「回動板状部材」を充足し、又はこれと均等であるかが争われた事案である。② 「板状」として薄くしH形鋼のウェブ部に収容する構成が発明の本質的部分であるとして、文言充足が否定され、均等第1要件も満たさないとされた。③ 明細書に記載された課題及び効果から従来技術にない技術的思想を把握し、均等第1要件の本質的部分を判断した事例である。

特許

令和6年(行ケ)10024【X線検査装置】<中平裁判長>① 引用文献2に記載された2つの冷却循環系のうち、審決がセンサ部の「冷風循環系」のみを抽出して技術的事項を認定したことの適否が争われた事案である。② センサ部の冷風循環系と信号処理回路部の液体冷媒循環系は別個の技術的思想として把握できるため、冷風循環系のみを認定した審決に誤りはないとされた。③ 引用文献中の複数の構成が異なる技術的思想として把握できる場合、その一方のみを客観的かつ具体的に抽出して引用発明を認定し得ることを示す事例である。

特許

令和7年5月27日 令和3年(ネ)10037【止痒剤】<清水響裁判長>① 特許法102条1項及び3項に基づく損害額の算定において、消費税相当額を加算できるかが問題となった事案である。② 同条1項の逸失利益は資産の譲渡等の対価ではなく消費税を加算できない一方、同条3項の実施料相当額はその対価と評価できるため消費税相当額を加算し得るとされた。③ 特許侵害による損害の消費税上の取扱いは、同条1項の逸失利益と同条3項の実施料相当額とで異なることを示す事例である。

商標

【著作物・商標権】東京地判令和3年(ワ)32244<中島裁判長>① スケートボーダー兼アーティストである被告が、ライセンス契約先である原告に対し、著作権の帰属及び商標権の移転登録を争った事案である。② アルバムカバーアート等の著作権は被告に帰属し、原告らは商標権の返還義務及び返還協力義務を負い、返還義務を前提とする使用には自己のためにする意思がないため時効取得も成立しないとされた。③ 契約上の著作権譲渡と独占的使用権の付与を文言に即して区別し、商標権の返還条項が時効取得の成否にも影響することを示す事例である。

特許

大阪地判令和6年(ワ)2705【角度調整可能なヒンジ】<武宮裁判長>① ドイツ及び中国の特許権について、日本の裁判所に移転登録手続を求める訴えの適法性が問題となった事案である。② 特許登録に関する訴えは登録国の裁判所が専属的に管轄し、日本の裁判所には管轄権がなく、確認による法的地位の不安除去も認められないとして却下された。③ 外国特許の権利帰属を争う際には、登録国の専属管轄と日本判決が現地で法的効果を持つかを検討する必要があることを示す事例である。

特許

大阪地判令和5年(ワ)10970【映像視聴装置】<武宮裁判長>① 被告装置が構成要件F及びGの「圧縮」を備えるか、並びにAMAZONへの侵害報告が不正競争行為に当たるかが争われた事案である。② 「圧縮」には車両走行情報を元の期間より短い期間に収まるよう時間的に短縮することが必要であるとして非充足とされ、侵害報告について損害賠償請求が認容された。③ 販売プラットフォームへの特許侵害報告は、対象製品が特許発明を充足しない場合に不正競争行為として損害賠償責任を生じ得ることを示す事例である。

特許

令和7年(ネ)10008【故人及び/又は動物の放置された部屋の消臭方法】<中平裁判長>① 特殊清掃において、解体作業で露出した箇所に汚物が残存し、その箇所を塗料で覆う構成要件Eを充足したかが争われた事案である。② 見積書はコーティングの必要性の予測にすぎず、洗浄剤やコーティングも予防的に使用され得るため、汚物の残存を推認できないとして非充足とされた。③ 作業の見積りや薬剤使用の事実だけでなく、解体後の露出箇所に汚物が残存したことを示す客観的証拠が充足立証に必要であることを示す事例である。

特許

令和6年(ネ)10084【遠隔操縦無人ボート】<中平裁判長>① 構成要件Jの「第1制御装置」が、信号途絶と電源残量低下という2つの自動回帰発動条件の双方を判断できる機構を要求するかが争われた事案である。② 明細書の図8のフローチャート等から双方の条件を判断する1つの機構が必要であり、各条件を別々に備える2つの発明ではないとして文言充足が否定され、均等第1要件及び第5要件も否定された。③ 複数条件の関係はクレーム文言だけでなく明細書のフローチャートからも解釈され、各条件を別個に備える構成では充足しない場合があることを示す事例である。

特許

令和6年(ネ)10078【ダニ用食餌入りの多孔質通気性袋】<本多裁判長>① ダニ誘引物質を2枚の不織布シートやガーゼ等で挟み込んだ被告製品が、構成要件A-3の「多孔質通気性袋」を充足するかが争われた事案である。② 同構成は少なくとも内包物を内部に保持して拡散を防止できる構造を要するところ、被告製品は周囲から誘引物質が零れ落ちるため非充足とされた。③ 「袋」の充足判断では外形だけでなく、内容物を内部に保持して拡散を防ぐ機能の有無が立証上の要点となることを示す事例である。

特許

令和6年(ネ)10012【Rバッジ、受信装置】<清水響裁判長>① 受信装置のサブコンビネーションクレームに引用された「請求項4記載の」携帯電話に関する事項を、受信装置の発明特定事項として扱うかが問題となった事案である。② 当該事項は受信装置を特定する意味を有しないため発明の要旨認定から除外され、乙52発明に周知技術を適用することは容易であるとして進歩性が否定された。③ サブコンビネーションの相手方装置だけを特定し、自装置の構造又は機能を特定しない記載は、発明の要旨認定から除外され得ることを示す事例である。

特許

令和6年(行ケ)10042【溶解炉】<増田裁判長>① 主引用発明のリジェネレーティブバーナーを周知のフラットフレームバーナーに置換し、さらに熱交換器を追加する動機付けがあるかが争われた事案である。② 主引用発明は周知技術が存在したにもかかわらずエネルギー効率等から別のバーナーをあえて採用し、既に排熱回収用の熱交換器も備えていたため、置換及び追加の動機付けがなく進歩性が肯定された。③ 周知技術であっても、主引用発明が別の構成を意図的に採用し、既に同じ課題を解決している場合には、適用の動機付けが否定され得ることを示す事例である。

特許

【特許★★★】第5世代分割出願における分割要件違反により、第7世代の特許が、原出願公開公報により新規性欠如の無効理由を有すると判断された。 -知財高判令和6年(行ケ)第10086号【車両誘導システム】事件<本多裁判長>-① 第5世代分割出願が、第4世代当初明細書等で課題解決に必要不可欠とされた車両を戻す場合及び判定方法の限定を外したことが、分割要件を満たすかが争われた事案である。② 当該限定のない上位概念化は新たな技術的事項を導入するため分割要件違反であり、第7世代の本件出願も原出願日まで遡及せず、原出願公開公報により新規性を欠くとされた。③ 分割系列の途中に分割要件違反があると後続出願も原出願日への遡及利益を失い得るため、各世代の発明が直前の明細書等の開示範囲内かを確認する必要があることを示す事例である。

特許

【特許★★】特許権侵害訴訟の控訴審において、控訴理由書で新たな無効理由を主張したが、原審で主張できたことを理由として、時機後れと判断された事例 -知財高判令和6年(ネ)第10010号【女性用衣料】事件<中平裁判長>- (第一審・東京地判令和3年(ワ)第18262号<國分裁判長>)① 一審で提出可能であった乙31ないし33に基づく新たな無効理由を、控訴理由書で初めて主張したことが時機に後れた攻撃防御方法に当たるかが問題となった事案である。② 新たな無効理由の提出には重過失があり本来は却下を免れないとされたが、被控訴人が反論し再反論なく弁論終結に至ったため訴訟遅延はないとして実体判断され、無効理由も否定された。③ 控訴理由書での提出であっても一審で主張できた無効理由は時機後れと評価され得るため、無効資料及び抗弁は一審段階で可能な限り提出する必要があることを示す事例である。

特許

【特許★】サブコンビネーションの相手方の構成等が発明特定事項でないと判断された事例。⇒進歩性× -知財高判令和7年7月10日・令和6年(ネ)第10012号【Rバッジ、受信装置】事件<清水響裁判長>-① サブコンビネーションクレームに記載された相手方装置の特徴が、自装置の発明特定事項として認定される基準が問題となった事案である。② 相手方装置だけを特定し、自装置の構造又は機能等を特定しない事項は発明の要旨認定から除外され、携帯電話の内部事情等は受信装置側に差異を生じさせないと整理された。③ 相手方装置の限定を発明特定事項とするには、それに対応する信号処理、物理的形状又はタイミング制御等を自装置側の構造又は機能としてクレームに反映することが有用である。

特許

【特許★】請求項中のパラメータの導出方法に関する発明の詳細な説明中の記載が誤りであり、誤記の主張も斥けられ、サポート要件が否定された事例 -東京地判令和5年(ワ)第70114号【自動二輪車のブレーキ制御装置】事件<柴田裁判長>- (控訴審・知財高判令和6年(ネ)第10038号<本多裁判長>同旨)① 補正後の横Gを導出する明細書中の式が物理学上成立するか、また、その式を一義的な誤記として訂正してサポート要件を満たすといえるかが争われた事案である。② 加速度から速度を減算する式は次元が一致せず物理学上意味を持たず、原告主張の訂正以外の解消方法もあり他の記載との不整合も生じるため誤記とは認められず、サポート要件が否定された。③ 課題解決の根幹となる演算やパラメータの導出方法は、物理的整合性を備え、当業者が一義的に理解できるよう明細書に記載する必要があることを示す事例である。

特許

令和7年(ネ)10001『フルボ酸製造方法関連特許使用料』<本多裁判長>① 特許専用実施権の譲渡及び通常実施権の再許諾を目的とする契約について、実施許諾権限を欠く債務不履行による解除の有効性と契約書7条の免責効果が争われた事案である。② 同条は将来の登録不能の可能性を認識する注意条項にすぎず、契約締結時から実施許諾義務を履行できない状態についての免責条項ではないとして、被控訴人の解除が有効とされた。③ 将来の登録不能リスクを示す注意条項と、契約締結時から存在する主たる給付の履行不能に対する免責とは区別されることを示す事例である。

特許

令和5年(行ケ)10147【RNA依存性標的DNA修飾】<清水響裁判長>① 第1出願書類にPAM配列、NLS・コドン最適化及び真核細胞への適用が十分に開示され、本件発明が優先権主張の利益を享受できるかが争われた。② 裁判所は、これらが出願時の技術常識又は周知技術であり、過度の試行錯誤なく実施できたとして、実質的な開示を認め、優先権主張の利益を肯定した。③ 優先権の基礎となる開示は、第1出願書類の文言だけでなく、出願時の技術常識と過度の試行錯誤の要否を踏まえて判断されることを示すものである。

特許

東京地判令和7年(ワ)70003【喫煙具用カートリッジ】<澁谷裁判長>① 損害賠償請求権不存在確認訴訟の提起後に被告が同請求権を放棄した場合、税関手続等が残る中で即時確定の利益があるかが争われた。② 裁判所は、損害賠償請求権不存在に現実の紛争はなく、確認判決も差止請求権等を妨げないとして、即時確定の利益を否定した。③ 権利者が損害賠償請求権を確定的に放棄した後は、差止請求権を争うには、その不存在確認を直接求める必要があることを示すものである。

商標

【商標/ドメイン】東京地判令和5年(ワ)70022『Legal Force』事件<髙橋裁判長>① 米国法人による英語ウェブサイト上の「LEGAL FORCE」商標の使用及び日本のドメイン名の使用について、日本の国際裁判管轄と侵害等が争われた。② 裁判所は、ウェブサイトが日本の需要者を対象としていないとして商標関係の管轄を否定する一方、.JPドメインについては管轄を認めたものの、不正目的を否定して請求を棄却した。③ ウェブサービスの国際裁判管轄では日本の需要者を対象とする実態が重要であり、ドメイン名については管理機関の所在地と取得・使用目的が別個に判断されることを示すものである。

特許

中間判決・令和6年(ネ)10034【弾塑性履歴型ダンパ】<本多裁判長>① 弾塑性履歴型ダンパについて、構成要件Gの「入力」の方向及び構成要件Dの「一対のプレート」の充足性が争われた。② 知財高裁は、「入力」を特定方向に限定せず、Σ形ダンパ5及び6の2枚の接続プレート又は補剛材を「一対のプレート」と認め、被告製品の一部につき侵害を認めた。③ クレーム及び明細書に方向の限定がない場合に「入力」へ限定を加えず、部材の形状・配置・接続関係から「一対」の該当性を判断した事例である。

特許

東京地判令和6年(ワ)70283【予約管理装置】<杉浦裁判長>① 予約管理装置から画像印刷装置への「送信」に、薬局端末を介して画像データを印刷する被告システムが含まれるかが争われた。② 裁判所は、予約管理装置が別装置を介して送信する構成は特許請求の範囲にも明細書にも開示又は示唆されていないとして、被告システムの充足性を否定した。③ 送信経路の充足性は、サーバとプリンタの直接通信か端末を介した通信かを区別し、クレーム及び明細書の根拠に即して判断すべきことを示すものである。

特許

大阪地判令和6年(ワ)4500【買物決済システム】<松阿彌裁判長>① 買物決済システムについて、バーコードスキャナーの「カメラ」該当性、顧客端末との「紐付け」及び「異常」検知の充足性が争われた。② 裁判所は、コードを取得するスキャナーは画像を取得するカメラでなく、会員番号との対応付けは顧客端末との紐付けでなく、重量変化による検知も画像識別の成否による異常でないとして、非充足とした。③ 取得する情報、対応関係を確立する対象及び異常検知の契機が、クレームの定める技術的構成と一致するかを個別に確認する必要があることを示すものである。

特許

令和6年(ネ)10068【もれ防止用シール材】<清水響裁判長>① 「径」の測定状態と、第三者が取り付ける被告製品が本件特許を侵害する物の生産にのみ用いる物に当たるかが争われた。② 知財高裁は、「径」を原糸状態の太さと解して非充足とし、キヤノンによる所定角度での取付けや他の経済的・商業的・実用的用法がないことの立証もないとして、間接侵害を否定した。③ 用語の測定状態は明細書と技術常識から定まり、特許法101条1項1号の適用には所定の使用実態と他用途の不存在について立証が必要であることを示すものである。

特許

令和7年(ネ)10005【親綱支柱用治具】<増田裁判長>① 被告製品のフックが、矩形状の板の端部をU字状に折り曲げた「折り曲げ部」に当たるか及び均等侵害が成立するかが争われた。② 知財高裁は、フックが底板をU字状に折り曲げて形成されたものではなく、本質的部分にも相違があるとして、文言侵害及び均等侵害を否定し、虚偽事実の告知・流布を認めた原審を維持した。③ 部材の形状だけでなく、その形成方法が構成要件で特定され、本質的部分に関わる場合は、文言侵害と均等侵害の双方が否定され得ることを示すものである。

特許

東京地判令和6年(ワ)70128【箱型船】<中島裁判長>① 耐用期間1年のPHセンサ等を交換するメンテナンス行為が、特許法2条3項1号の「生産」に当たるかが争われた。② 裁判所は、PHセンサが消耗品で、本件発明の本質的部分ではなく、箱型船全体に比べ経済的価値も極めて僅かであるとして、交換後も製品の同一性は失われず、「生産」に当たらないとした。③ 交換行為の「生産」該当性は、交換部品の耐用期間、本質的部分との関係、経済的価値及び製品全体の同一性から判断され、取付行為のみを切り出すべきでないことを示すものである。

特許

令和7年(ネ)10004【ワイヤレススカッフプレート】<中平裁判長>① 「オンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」の意味と、被控訴人各製品の充足性が争われた。② 知財高裁は、「調整可能」を発光持続時間を能動的に可変とすることと解し、各製品は磁気感知のタイミングと無関係にこれを可変調整する制御モジュールを備えないとして、非充足とした。③ 「調整可能」との機能的文言は、単にオン・オフできるだけでなく、対象時間を可変に制御できる構成の有無により判断されることを示すものである。

特許

東京地判令和6年(ワ)70463【水栓エルボ連結固定具】<杉浦裁判長>① 拒絶査定を受けた水栓エルボ連結固定具の特許出願又は出願発明をめぐり、契約上の請求及び不法行為の成否が争われた。② 裁判所は、権利設定の事情がなく、発明が本件契約の対象とも認められず、被告の出願過程又は実施への関与も認められないとして、請求を否定した。③ 拒絶された出願発明に基づく契約責任又は不法行為責任を問うには、権利設定、契約対象への包含及び相手方の具体的関与を裏付ける必要があることを示すものである。

意匠

【意匠】大阪地判令和5年(ワ)2668『土留め植生土嚢』事件<松阿彌裁判長>① 自然物である「草」を含む土留め植生土嚢の意匠の特定及び類否並びに、植生シートの固定構成に関する均等侵害が争われた。② 裁判所は、草の形状も定型性・再現可能性の範囲で特定した上、被告土嚢は特に草の生え方が大きく異なり非類似であり、固定構成は発明の本質的部分であるとして均等侵害も否定した。③ 自然物を含む意匠でも再現可能な形状として類否を判断し、作用効果をもたらす特徴的な固定構成は均等論上の本質的部分となり得ることを示すものである。

特許

東京地判令和6年(ワ)70223【ゲームシステム及びゲームプログラム】<中島裁判長>① ゲームシステムにおける購入アイテムとゲーム内獲得アイテムの数量管理・優先消費及び、ゲームプログラムにおける「累計獲得数」の充足性が争われた。② 裁判所は、被告システムが購入時の無料分とゲーム内獲得分を区別せず、優先消費機能もなく、該当数値にスキルチケット使用回数も含むとして、各特許の充足性を否定した。③ 数量を合算管理しているか区分管理しているか、また対象数値に別要素が混在するかが、データ構成を特定するクレームの充足性を左右することを示すものである。

特許

大阪地判令和5年(ワ)7855【物理ハイブリッド自動再送要求指示チャネルのマッピング方法】<松阿彌裁判長>① 標準必須特許に基づく差止請求について、ライセンス交渉におけるG社の対応が不誠実なホールドアウトに当たるかが争われた。② 裁判所は、NDA交渉や多数のクレームチャート検討に要した期間はやむを得ず、G社は根拠ある対案・修正案を示して真摯に交渉していたとして、差止請求を権利濫用として棄却した。③ FRAND交渉では、交渉期間の長さだけでなく、秘密保持や特許検討の必要性、料率根拠への応答及び対案の合理性を踏まえて誠実性が判断されることを示すものである。

特許

令和7年(ネ)10035【車両誘導システム】<本多裁判長> (PXZ v. 東日本高速道路株式会社)① 「一般車用出入口」の範囲と、ETCによる料金徴収が不可能な車両を所定ルートへ戻す「誘導手段」の有無が争われた。② 知財高裁は、隣接する別のインターチェンジの一般車用出入口は含まれず、標識等のない運転者の任意のUターンは設備による誘導でないとして、非充足とした。③ 本件の「一般車用出入口」は車両誘導システムが設置された同じ施設の出入口を指し、隣接する別のインターチェンジの出入口を含まず、標識等のない運転者の任意のUターンも設備による「誘導」には当たらないとした事例である。

特許

令和7年(ネ)10025【スピンドルモータ】<中平裁判長> ⇒職務発明対価請求① スピンドルモータに係る日本、米国及び中国の特許発明について、控訴人が共同発明者として職務発明対価を請求できるかが争われた。② 知財高裁は、控訴人の説明書は日本発明の核心である連通孔の具体的構成に触れず、米中発明の貫通穴も控訴人の溝の着想とは異なるとして、共同発明者性を否定し、請求を棄却した。③ 共同発明者性の立証には、発明の核心となる具体的構成への関与を示す資料が重要であり、異なる課題・解決手段を記載した説明書では足りないことを示すものである。

特許

大阪地判令和6年(ワ)7193号【物品搬送設備】<松阿彌裁判長> ⇒職務発明対価請求棄却① 職務発明の社内規定の策定・運用、周知及び内容が特許法35条5項に照らして不合理であり、同条7項に基づく相当の利益を請求できるかが争われた。② 裁判所は、労働組合との協議、全従業員からの意見募集、常時閲覧・研修、客観的指標による実績報奨金及び意見申述機会を踏まえ、規定は不合理でないとして請求を棄却した。③ 規定の合理性を支える事情として、策定時の協議と意見聴取、制度の周知、客観的評価、実績に応じた報奨及び発明者の意見申述機会が重視されることを示すものである。

令和6年(行コ)10007【医薬組成物/存続期間延長登録】<中平裁判長>

令和6年(行コ)10007【医薬組成物/存続期間延長登録】<中平裁判長>

<論点>医薬品の「添付文書の改訂」が、特許権の存続期間延長登録の理由となる「処分」(特許法67条4項、同法施行令2条)に該当するか?

⇒添付文書改訂は延長登録の対象となる「処分」には該当しない。

(1)添付文書改訂の法的性質(争点1関連)<承認事項との区別>本件医薬品の製造販売承認において「投与速度」は承認事項(用法・用量)としては申請されておらず、審査の対象にもなっていない。投与速度に関するPMDAの指示は行政指導に留まり、法的な拘束力を持つ処分ではない。<禁止の解除ではない>添付文書改訂前においても、本件投与方法(高速度での投与)が法令上禁止されていたわけではない。したがって、添付文書改訂によって何らかの禁止が解除された(特許発明の実施が可能になった)という関係にはない。<一部変更承認との相違>添付文書の改訂届出は、製造販売業者の義務履行であり、それ自体が行政庁による権利義務の変更(処分)を意味するものではない。したがって、薬機法上の「一部変更承認」とは法的性質が異なる。

(2)政令の類推適用の可否(争点2関連)特許法施行令2条2号が定める延長登録の理由となる「処分」は限定列挙であると解される。同施行令は度々改正されているが、添付文書改訂相談制度導入後も、添付文書改訂を処分に含める改正は行われていない。特許権の存続期間終了後は何人も自由に発明を利用できるという特許制度の根幹(公益)に鑑みれば、明文の規定がない「添付文書改訂」を類推解釈によって延長登録の対象とすべきではない。

令和6年(ネ)10076【起伏収容式仮設防護柵】<中平裁判長>

令和6年(ネ)10076【起伏収容式仮設防護柵】<中平裁判長>

被告製品「角筒管」(四角いパイプ状の支柱)は、本件特許発明の「回動板状部材」を文言非充足。

本件発明の課題は「仮設用防護柵の起伏する部材の幅を小さくし、軽量化・コンパクト化を図ること」。⇒本件明細書には、「回動板状部材は短手方向に厚さを有するので(薄いので)、基礎架台(H形鋼)のウェブ部の幅に収容可能である」という効果が記載されている。⇒ 支柱を「板状」にすることで薄くし、H形鋼のくぼみ(ウェブ部)に収まるようにするという構成は、従来技術に見られない特有の技術的思想(=本質的部分)である。⇒均等侵害不成立(第1要件×)

令和6年(行ケ)10024【X線検査装置】<中平裁判長>

令和6年(行ケ)10024【X線検査装置】<中平裁判長>

引用文献2には、センサ部の「冷風循環系」と信号処理回路部の「液体冷媒循環系」が記載されているが、これらは冷却構成として別個の技術的思想として把握可能である。⇒したがって、審決がセンサ部の冷却に関連する「冷風循環系」のみを抽出して認定したことに誤りはない。

(判旨抜粋)本件審決の引用文献2に記載された技術的事項の認定は、冷却を行う構成として、上記引用文献2の記載を基礎とし、異なる技術的思想として把握し得る二つの循環系のうちの一方の循環系であるセンサ部の熱を奪う冷風循環系を、客観的かつ具体的に認定したものと認められる。 以上によれば、引用文献2に記載された技術的事項に関する本件審決の認定に誤りがあったとは認められない。

令和7年5月27日 令和3年(ネ)10037【止痒剤】<清水響裁判長>

令和7年5月27日令和3年(ネ)10037【止痒剤】<清水響裁判長>

<損害論>消費税相当額の取扱い消費税法4条・2条1項8号および消費税法基本通達5-2-5⇒特許法102条1項に基づく「販売数量×単位利益」により算定される逸失利益については、「資産の譲渡等の対価」とはいえず、消費税を上乗せすることはできない。他方、特許法102条3項に基づく「実施に対し受けるべき金銭の額」は、侵害者との間で事後的に定める実施料相当額であり、「資産の譲渡等の対価」と評価し得るから、その範囲で消費税相当額を加算しうる。

※損害論以外は、同日付の、令和6年(行ケ)10033【止痒剤(ナルフラフィン塩酸塩/存続期間延長)】<清水響裁判長>と同じ。

【著作物・商標権】東京地判令和3年(ワ)32244<中島裁判長>

【著作物・商標権】東京地判令和3年(ワ)32244<中島裁判長>

スケートボーダー兼アーティストである被告(AI)が、ライセンス契約を締結しビジネスを展開していた原告SIに対し、商標権の移転登録を求めた(反訴)

①本件各著作物に係る著作権は、被告に帰属する。原告SIは、2000年の本件音楽契約に基づき著作権を譲受したと主張するが、同契約の解釈上、音楽作品等は譲渡対象(shall be transferred)であるのに対し、アルバムカバーアート等については宣伝目的の独占的使用権(shall have the exclusive rights)の付与に留まる。

②原告らは被告に対し、本件各商標権の返還義務及び返還協力義務を負う。本件ライセンス契約11条は、被告の請求があれば商標登録を被告に返還することを条件として、権利保護のために「MARK GONZALES」等の標章を登録できる旨定めている。原告らは時効取得を主張するが、返還義務を前提とした使用であり「自己のためにする意思」が認められないため、時効取得は成立しない。

※米国と韓国の判決を証拠として引用している。米国CA州法が準拠法だから、米国判決を引用することは理解可能だが、韓国判決を引用したことは興味深い。

大阪地判令和6年(ワ)2705【角度調整可能なヒンジ】<武宮裁判長>

大阪地判令和6年(ワ)2705【角度調整可能なヒンジ】<武宮裁判長>

ドイツおよび中国の特許権の移転登録手続請求⇒不適法却下

特許の登録に関する訴えは「登録すべき地(その国)」の裁判所が専属的に管轄する。日本の裁判所には管轄権がない。

(中国)日本と中国の間には判決承認の相互保証がないため、仮に日本で「原告に権利がある」と確認しても、中国での被告勝訴判決の効力を阻止する役には立たず、法的地位の不安除去につながらない。

(ドイツ)ドイツにおいて原告側がビジネスを行う具体的可能性が示されておらず、法的紛争が成熟していない。

(日本での提訴リスク) 被告が日本で「外国特許侵害」を理由に提訴したとしても、属地主義により請求が認められる余地は極めて小さい。

大阪地判令和5年(ワ)10970【映像視聴装置】<武宮裁判長>

大阪地判令和5年(ワ)10970【映像視聴装置】<武宮裁判長>

構成要件F及びGの「圧縮」を備えるというには、T1期間分(又は「T2期間+T1期間」分)の車両走行情報が存在する場合に、これらの期間よりも短いT2期間に収まるように車両走行情報を時間的に短縮する(おしちぢめる)ことが必要である。⇒非充足

⇒Amazonへの侵害報告が不正競争行為に当たるとして、損害賠償請求認容!!

令和7年(ネ)10008【故人及び/又は動物の放置された部屋の消臭方法】<中平裁判長>

令和7年(ネ)10008【故人及び/又は動物の放置された部屋の消臭方法】<中平裁判長>原審・東京地判令和5年(ワ)70512

構成要件E『前記解体作業で露出した汚物の残存する箇所を塗料で覆う被覆作業』⇒非充足

(判旨要約)<見積り記載>見積りへの計上は、あくまでコーティング作業が必要になるであろうという「予測」を示したにすぎず、実際に解体後の露出箇所に汚物が残存していたという客観的事実を認定する根拠にはならない。

<薬剤使用>特殊清掃において洗浄剤やコーティングを用いたとしても、それは汚物が残存していた場合に限定されるものではなく、予防的あるいは念のための処置として行われる可能性もある。したがって、これらの作業実施の事実のみをもって、解体により露出した箇所に汚物が残存していたと推認することはできない。https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94197.pdf

令和6年(ネ)10084【遠隔操縦無人ボート】<中平裁判長>

令和6年(ネ)10084【遠隔操縦無人ボート】<中平裁判長>

構成要件Jの『第1制御装置』は、自動回帰発動条件①(信号途絶)及び条件②(電源残量低下)のいずれに係る判断をも行うことができる機構を備えるものである。…①又は②を別々に備える二つの発明が記載されたものでないことは、本件明細書の図8の記載(すなわち、フローチャートにおいて、所定時間内に受領信号を受信しなかった場合には自動回帰となるが、その受信を確かめた場合には、さらに電源残量が所定値以下であるか否かを確かめるステップに進むこととされ、自動回帰に至らない場合にはいずれの条件をも確かめるとされていること)からも明らかである。⇒文言非充足

均等も不成立、第1要件、第5要件

令和6年(ネ)10078【ダニ用食餌入りの多孔質通気性袋】<本多裁判長>

令和6年(ネ)10078【ダニ用食餌入りの多孔質通気性袋】<本多裁判長>

★特許は、原審・大阪地判令和4年(ワ)11025と同じ。

*本件発明は、誘引物質を内部で保持することができる構造。⇒被告製品は、ダニ誘引物質が2枚の不織布シートやガーゼ等で重ねて挟み込まれているのみであり、その周囲からダニ誘引物質が零れ落ちるようなものであるから、非充足

※…被告製品は、本当にそうなのか。実験等で、零れ落ちないと立証するべきであったか。

(原審・判旨抜粋)本件明細書の記載によると、本件発明は、大きなダニ捕獲能力を発揮することを目的として、その手段は、ダニ誘引物質を含浸させた織物シートからダニ誘引物質を拡散させることで広い範囲のダニを誘引した上で、マッ トの内部にダニ捕獲用の粘着テープと、これに対して千鳥状に被着させたダニ用食餌を入れた多孔質通気性袋を配することで、ダニ誘引物質で誘引されたダニを、マットの表裏両面からさらに内部に侵入させ、粘着テープに触れさせ、そこで捕捉するようにするというものである。そして、ダニを誘引させる物質として、「香料」を織物シートに含侵させた上、「食餌」入りの多孔質通気性袋を配置させる位置を両面粘着テープの表裏両面に配置させることにより、多孔質通気性カバーの内側に誘い込み、混ぜ物のない粘着層に触れさせて補足させる構成をとるものであるから、本件発明において 「多孔質通気性袋」は、食餌が同位置にとどまり、粘着層の粘着力を低減させない機能を備えるべきことが想定されているといえる。加えて、多孔質通気性袋の構造上、一袋でこれらが実現でき、構成材料の数も減らすことができるようになっている。以上を踏まえると、構成要件A-3にいう「多孔質通気性袋」とは、辞書的にも、本件明細書の記載からも、少なくとも内包物を内部で保持し、拡散を防止することができる構造を有することが必要であると解することが相当である。一方、販売被告製品では、ダニ誘引物質が2枚の不織布シートやガーゼ等で重ねて挟み込まれているのみであり、その周囲からダニ誘引物質が零れ落ちるようなものであるから、誘引物質を内部で保持することができる構造であるとは認められない。

令和6年(ネ)10012【Rバッジ、受信装置】<清水響裁判長>

令和6年(ネ)10012【Rバッジ、受信装置】<清水響裁判長>

*サブコンビネーションが発明特定事項でないと判断された事例。

本件特許の優先日当時、スマートカード機能を携帯電話に取り込みRFIDで通信する技術(乙19)や、ICカードに代えて携帯電話と受信端末とで通信を行う技術(乙9及び11)は、当業者にとって周知技術であった。乙52発明とこれら周知技術は技術分野が共通しており、乙52発明の非接触データキャリアを携帯電話とする構成を採用することは、当業者が容易に想到し得た。⇒進歩性×

(判旨抜粋)本件訂正後の請求項5における「他のサブコンビネーション」である「請求項4記載の」携帯電話に関する事項は、本件訂正発明5における「受信装置」の発明を特定するためには意味を有しないものといえる。したがって、本件訂正発明5に係る発明の要旨認定においては、「請求項4記載の」との事項は除外して認定するのが相当というべきである。

令和6年(行ケ)10042【溶解炉】<増田裁判長>

令和6年(行ケ)10042【溶解炉】<増田裁判長>

①主引例は敢えて周知技術でない構成を採った②主引例は既に課題を解決しており、重ねて採用する動機付けがない。⇒進歩性〇

(判旨抜粋)甲3発明のタワー型非鉄金属溶解保持炉は、その発売当時、フラットフレームバーナーがアルミ溶解等の用途において周知のものであったにもかかわらず、エネルギー効率等の観点であえて保持バーナーにリジェネレーティブバーナーを採用したと認めることができる。そうすると、甲3発明に接した当業者において、そのような保持バーナーに代えて、あえてフラットフレームバーナーを採用する動機付けが存在していたとは認められない。

甲3発明の保持バーナーにはリジェネレーティブバーナーが採用されていると認められるところ、リジェネレーティブバーナーには自己完結型排熱回収機能、すなわち、排ガスを吸引し蓄熱体で熱交換を行って空気を予熱する機能を有するものであり、熱交換器を備えているから…、これに追加して更に熱交換器を備えようとする動機付けが存在するとはいえない。

【特許★★★】第5世代分割出願における分割要件違反により、第7世代の特許が、原出願公開公報により新規性欠如の無効理由を有すると判断された。 -知財高判令和6年(行ケ)第10086号【車両誘導システム】事件<本多裁判長>-

 

 

【本判決の要旨、若干の考察】

1.事案の概要

第4世代当初明細書等には、車両誘導システムの発明において、①ETCを利用できない車両がETC車専用レーンに進入した場合に、当該車両を、分岐レーンを走行させて戻すという事項、及び、②戻す対象となる車両は、ETC車載器と路側アンテナとの無線通信が可能か否かにより判定するという事項が、必要不可欠な構成として記載されており、上記①及び②を必須の構成としない技術思想は、開示されていない。

他方、第5世代分割出願の特許請求の範囲に記載された各発明は、一般道路から有料道路のパーキングエリア若しくはサービスエリアに向かう入口側のレーンの途中から分岐する一般道路に戻るレーン、又は有料道路のパーキングエリア若しくはサービスエリアから一般道に向かう出口側のレーンの途中から分岐するパーキングエリア若しくはサービスエリアに戻るレーンを設けた三叉路型レーンにおいて、分岐した先の左右2か所の遮断機の開閉に関して、判定手段を特定しないことで、ETCシステムの路側アンテナと車載器との間の無線通信の不能又は不可が発生しているかの判定を伴うことに限らない任意の基準・方法によって、遮断機の一方は閉じたままで他方が開いて、本レーンをそのまま走行するか、分岐レーンに進むかを誘導するという新たな技術的事項を導入するものであり、①分岐レーンを走行させて車両を戻す場合についての限定がなく、②戻す対象となる車両を判定する方法についての限定もないのであるから、これら2点の構成において、第4世代当初明細書等に記載された必須の構成を、無限定に上位概念化させていることとなる。

したがって、第5世代各発明は、第4世代当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものというべきであり、第5世代分割出願は、特許法44条2項本文の適用を受けることができず、その出願日は、現実の出願日である平成26年12月2日となる。

そうすると、第7世代の分割出願に当たる本件出願の出願日も、平成26年12月2日までしか遡及し得ないこととなる。

そして、平成26年12月2日より前に日本国内において頒布された甲9(最初の原出願の公開特許公報である特開2006-79580号公報)には、本件発明1及び2それぞれの構成を含む、有料道路料金所に設置された車両誘導システムの構成が記載されており、同じ構成の車両誘導システムをサービスエリア又はパーキングエリアに設置できることが記載されている。

そうすると、本件各発明は、いずれも、甲9に記載された発明であって、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない。

 

2.判旨抜粋

特許請求の範囲の記載によると、第5世代各発明は、いずれも、ETC専用の入口料金所、出口料金所又はその双方を有するスマートインターチェンジであって、当該料金所が設けられるレーン(以下「本レーン」という。)及び本レーンから分岐して車両が戻るレーン(以下「分岐レーン」という。)からなる三叉路型レーン、三叉路型レーンの分岐前の1か所と分岐した先の左右2か所に設けられた遮断機並びに三叉路型レーンの分岐前の本レーンに設けられた車両検知装置をその構成に含み、車両検知装置により車両が検知されることを契機として、分岐した先の左右2か所に設けられた遮断機のいずれかのみを開くものとして記載されている。

他方、第5世代各発明では、少なくとも、①分岐レーンを走行させて車両を戻す場合がいかなる場合であるか(第4世代当初明細書等の【請求項1】「路側アンテナ車載器と間で通信不能又は通信不可が発生したとき」)や、②車両を戻すべき場合に当たるか否かをETCシステムの無線通信により判定すること(同【請求項3】「前記路側アンテナは、車載器との間で無線通信可能か否かを判定するためのゲート前アンテナと入口情報及び料金情報の送受信を行なうETCアンテナとを有している」のような事項)が、発明特定事項として記載されていない。

したがって、第5世代各発明においては、①分岐レーンを走行させて車両を戻す場合についての限定がなく、②戻す対象となる車両を判定する方法についての限定もないということになる。

第4世代当初明細書等には、ETC車専用レーンにETCを利用できない車両が進入すると渋滞や後続車との衝突の危険があるという課題に対し、その解決手段として、これらのETCを利用できない車両がETC車専用レーンから離脱し得る手段を設け、離脱手段としてETC専用レーンから分岐するレーンを設けることや、車両の進入を検知した場合に遮断機を下ろすことにより車両を誘導すること等が記載されており、ETCを利用できない車両を検知したときに、この車両をETC車専用レーンから離脱させるべく誘導する車両誘導システムが開示されていると認められる。また、ETCを使用できない車両を検知し、これを判別する方法としては、【0010】や【0012】にみられるように、「路側アンテナと車載器との間で通信不能・不可」であるか否かによって行うとしており、その実施形態の説明のうち【0031】~【0053】、【0066】~【0068】、【図3】~【図8】、【図12】において、車両がETCによる無線通信が可能か否かによって行うことが開示されており、また、逆進入防止機能を充実させたインターチェンジの実施例である【0054】~【0062】、【図9】、【図10】、スマートインターチェンジの車両誘導システムの実施例である【0063】~【0065】、【図11】も、「図9は、図4の変形例」(【0055】)、「一般車レーンB、Cが無いことを除き、入口料金所12のレーン(A→D)と(A→E)の役割、及び出口料金所13のレーン(A→D)と(A→E)の役割は、図3、4、6及び7のそれと同じである」(【0064】)とされており、いずれも車両がETCによる無線通信が可能か否かによって誘導されることが前提とされている。そうすると、第4世代当初明細書等には、渋滞や後続車との衝突の危険という課題を解決するため、ETCを利用できない車両をETC車専用レーンから離脱させる車両誘導システムの発明において、具体的な課題解決手段として、①ETCを利用できない車両がETC車専用レーンに進入した場合に、当該車両を、分岐レーンを走行させて戻すという事項、及び、②戻す対象となる車両は、ETC車載器と路側アンテナとの無線通信が可能か否かにより判定するという事項がそれぞれ記載されていると認められる。そして、第4世代当初明細書等の全ての記載を総合しても、他に、分岐レーンを走行させて車両を戻す場合や、戻す対象となる車両を判定する方法を開示し、又は示唆する記載はないから、上記①及び②の事項は、第4世代当初明細書等に開示された発明において、課題解決のために必要不可欠な構成であるというべきである。…

これに対し、…第5世代各発明は、一般道路から有料道路のパーキングエリア若しくはサービスエリアに向かう入口側のレーンの途中から分岐する一般道路に戻るレーン、又は有料道路のパーキングエリア若しくはサービスエリアから一般道に向かう出口側のレーンの途中から分岐するパーキングエリア若しくはサービスエリアに戻るレーンを設けた三叉路型レーンにおいて、分岐した先の左右2か所の遮断機の開閉に関して、判定手段を特定しないことで、ETCシステムの路側アンテナと車載器との間の無線通信の不能又は不可が発生しているかの判定を伴うことに限らない任意の基準・方法によって、遮断機の一方は閉じたままで他方が開いて、本レーンをそのまま走行するか、分岐レーンに進むかを誘導するという新たな技術的事項を導入するものであり、①分岐レーンを走行させて車両を戻す場合についての限定がなく、②戻す対象となる車両を判定する方法についての限定もないのであるから、これら2点の構成において、第4世代当初明細書等に記載された必須の構成を、無限定に上位概念化させていることとなる。したがって、第5世代各発明は、第4世代当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものというべきである。…

被告は、第5世代発明1について、第4世代当初明細書等に記載された発明の中から、車両検知装置と遮断機とを利用して、車両を入口側レーンをそのまま走行させるか戻り路に戻すかのいずれかに誘導するようにした誘導手段に関する発明のみを取り出して記載したものであると主張する。しかし、車両検知装置と遮断機を利用して、車両を入口側レーンをそのまま走行させるか戻り路に戻すかのいずれかに誘導するようにした誘導手段の発明というのであれば、車両検知装置と遮断機とを連関させるべく、検知した車両をいずれのレーンに誘導するかを決定する手段・方法がなければ誘導手段として機能し得ないところ、…第4世代当初明細書等には、検知した車両をいずれのレーンに誘導するかを決定する手段・方法としては、ETC車載器と路側アンテナとの無線通信が可能か否かを判定する方法しか記載されていないのであるから、第4世代当初明細書等から、検知した車両をいずれのレーンに誘導するかを決定する手段・方法を特定することなく、車両検知装置と遮断機とを利用して車両をいずれかのレーンに誘導するようにした誘導手段の発明を取り出すことは、第4世代当初明細書等に記載された技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものといわざるを得ない。なお、被告は、当初出願の発明が第1及び第2工程からなる製造方法である場合に、第1工程のみの発明と補正することは、新規事項の追加に当たらないから、本件において、第4世代当初明細書等に記載された発明のうち下流側の構成のみを分割出願することは、新規事項の追加に当たらないとも主張する。しかし、第4世代当初明細書に記載されているのは、次の【図5】にみられるような処理フロー、すなわち車両検知装置による車両の検知、ゲート前アンテナとETC車載器との通信、ETC料金徴収の可否の判定、車両誘導装置による誘導、遮断機の開閉といった処理が順を追って行われ、全体としてその目的を達する車両誘導システムであって、その主要な処理(【図5】を例にすると、S04、S06、S07)を省略したものは、誘導手段として機能し得ないのであるから、中間生成物を得る第1工程と、最終生成物を得る第2工程からなる物の製造方法の発明と当然に同視して、下流側の構成のみを分割出願することが許容されるということはできない。したがって、被告の主張は採用することができない。(【図5】)

被告は、第5世代発明1は、不正車両を防止することを課題として、三叉路型レーンの分岐した先の左右2か所に設けた遮断機を常時「閉」とし、車両の通過を検知していずれかの遮断機を開くことにより、当該レーンから逆進入する不正車両を防止するという独立した発明であると主張する。しかし、第4世代当初明細書等のうち不正車両の進入を防止する旨の言及がある【0054】~【0062】においては、このような課題を解決するための手段として、分岐した両レーンのそれぞれに新たに遮断機と車両検知装置を設けて閉鎖区間を形成することが記載されている上に、「図4で説明した実施例では、料金不払いなどを目的とした不正車両が、ETC車用レーンの出口や離脱レーンの出口から遡ってETC車用レーンに逆進入することを防ぐことが出来ないという問題点を有している。」(【0054】)として、分岐した先の左右2か所の遮断機の一方は閉じたままで他方が開くという構成(【図4】を用いて説明する【0034】、【0035】に記載された構成)では、被告が主張する課題が解決されないことが明記されている。このような記載に照らすと、当業者において、第4世代当初明細書等に、被告が主張するような、不正車両の逆進入を防止することを課題として、その解決手段を第5世代各発明の構成とする発明が記載されていると認識することはできないというべきである。したがって、被告の主張は採用することができない。…

 

3.同日付の侵害訴訟判決(令和7年(ネ)第10035号)~本判決と同じ論理で非充足

(1)「一般車用出入口」(構成要件2E)の非充足

本件明細書の記載等から、「一般車用出入口」に、本件発明2に係る車両誘導システムが設置されている有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリア等に隣接する、別のインターチェンジの一般車用出入口は含まないと判断された。

(判旨抜粋)

本件親出願明細書の記載からは、ETCによる料金徴収が不可能であったためにスマートインターチェンジを利用できなかった車両が、隣接する別のインターチェンジの一般車用出入口を利用することが、本件発明2に係る誘導手段による誘導の結果であることを読み取ることはできない。したがって、構成要件2Eの「一般車用出入口」に、本件発明2に係る車両誘導システムが設置されている有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに隣接する別のインターチェンジの一般車用出入口が含まれると解することはできない。

 

(2)「誘導手段」(構成要件2E)の非充足

「誘導」とは客観的に導くことであり、標識等がない以上、(Uターンを指示する標識等がなく)運転者がUターンしてETC車専用出入口手前に戻ることが可能であったとしても、ETC車専用出入口手前に戻るルートへの「誘導手段」にあたらないと判断された。

(判旨抜粋)

「誘導」とは、目的に向かっていざない導くことを意味するところ、原告各設備内にはUターンを指示する標識等は存在しないのであるから、原告各設備が、ETCによる料金徴収が不可能な車両を再度ETC車専用出入口手前へ戻るルートにいざない導いているということはできない。当該車両の運転者が、その選択によりUターンをして再度ETC車専用出入口手前へ戻ることが事実上可能であるとしても、そのような運転者の意思による車両の走行を、原告各設備に設置された誘導手段によるものと評価することには無理があるというほかない。 したがって、原告各設備は、いずれも、ETCによる料金徴収が不可能な車両を「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート」に誘導する誘導手段を備えているとはいえない

 

4.若干の考察

分割出願の割合が増加している昨今、分割ツリーの途中の特許出願に新規事項追加があり、出願日が原出願まで遡れないことにより新規性・進歩性が否定される事態が増加することが懸念される。これまでは、裁判所でそのように判決された事案は少なかったが、これから増えることが想定される。

特に、2025年に、特許庁からいわゆる『除くクレーム』の補正要件を厳格化する方向で、審査基準改訂を示唆するメッセージが出されている。特許として成立した『除くクレーム』の発明のなかに新規事項追加の無効理由を有すると判断されるものが現れれば、上記問題が顕在化し、今後、特許実務が混乱する事態が懸念される。(産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会第18回 審査基準専門委員会ワーキンググループ資料参照)








 

【関連裁判例(分割要件について)】

(1)知財高判令和6年(行ケ)第10086号【車両誘導システム】事件<本多裁判長>(本判決)

*子出願が分割要件違反⇒孫出願の出願日は親出願まで遡及しない

<判旨抜粋>

第4世代当初明細書等には、ETC車専用レーンにETCを利用できない車両が進入すると渋滞や後続車との衝突の危険があるという課題に対し、その解決手段として、これらのETCを利用できない車両がETC車専用レーンから離脱し得る手段を設け、離脱手段としてETC専用レーンから分岐するレーンを設けることや、車両の進入を検知した場合に遮断機を下ろすことにより車両を誘導すること等が記載されており、ETCを利用できない車両を検知したときに、この車両をETC車専用レーンから離脱させるべく誘導する車両誘導システムが開示されていると認められる。また、ETCを使用できない車両を検知し、これを判別する方法としては、【0010】や【0012】にみられるように、「路側アンテナと車載器との間で通信不能・不可」であるか否かによって行うとしており、その実施形態の説明のうち【0031】~【0053】、【0066】~【0068】、【図3】~【図8】、【図12】において、車両がETCによる無線通信が可能か否かによって行うことが開示されており、また、逆進入防止機能を充実させたインターチェンジの実施例である【0054】~【0062】、【図9】、【図10】、スマートインターチェンジの車両誘導システムの実施例である【0063】~【0065】、【図11】も、「図9は、図4の変形例」(【0055】)、「一般車レーンB、Cが無いことを除き、入口料金所12のレーン(A→D)と(A→E)の役割、及び出口料金所13のレーン(A→D)と(A→E)の役割は、図3、4、6及び7のそれと同じである」(【0064】)とされており、いずれも車両がETCによる無線通信が可能か否かによって誘導されることが前提とされている。そうすると、第4世代当初明細書等には、渋滞や後続車との衝突の危険という課題を解決するため、ETCを利用できない車両をETC車専用レーンから離脱させる車両誘導システムの発明において、具体的な課題解決手段として、①ETCを利用できない車両がETC車専用レーンに進入した場合に、当該車両を、分岐レーンを走行させて戻すという事項、及び、②戻す対象となる車両は、ETC車載器と路側アンテナとの無線通信が可能か否かにより判定するという事項がそれぞれ記載されていると認められる。そして、第4世代当初明細書等の全ての記載を総合しても、他に、分岐レーンを走行させて車両を戻す場合や、戻す対象となる車両を判定する方法を開示し、又は示唆する記載はないから、上記①及び②の事項は、第4世代当初明細書等に開示された発明において、課題解決のために必要不可欠な構成であるというべきである。…

⇒第5世代各発明は、上記①及び②の事項(課題解決のために必要不可欠な構成)を有しないから、新規事項追加である。

 

(2)東京地判令和元年(ワ)第23164号【画像形成装置】事件<田中裁判長>

*子出願が分割要件違反⇒孫出願の出願日は親出願まで遡及しない。

※同じ特許の令和2年(行ケ)10131;「上記追加部分を削除するなどの補正をすることによって,本件出願2の分割要件違反の状態を解消する機会があったこと…を総合考慮すれば,本件出願2の審査官が上記分割要件違反を看過したことは適切ではなかったが…」と判示した。

<判旨抜粋>

…本件特許出願は,本件出願1の分割出願である本件出願2に係る,更にその分割出願である本件出願3に係る,更にその分割出願に係る特許出願であるところ,被告は,本件出願2が分割要件違反になる旨を主張するので,この点について検討する。

…分割出願が適法な場合には,その効果は原出願の出願日に遡及する(特許法44条2項本文)が,分割出願が不適法な場合には,分割出願をした時点を基準として実体審査が行われることになる。そして,分割出願の出願日が原出願の出願日へ遡及するためには,①分割出願の明細書等に記載された事項が,原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること,及び,②分割出願の明細書等に記載された事項が,原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であることを要するものと解するのが相当である。なお,原出願の明細書等について補正をすることができる時期に特許出願の分割がされた場合には,上記①の要件が満たされれば,上記②の要件も満たされるものと解されるところ,本件出願2は…本件出願1の明細書等について補正をすることができる時期…にされたものではないことからすれば,本件出願2の分割要件としては上記①の要件とは別に,上記②の要件を満たすことも必要となると解される。…

…本件出願2が分割出願された時点における本件出願1の明細書等,すなわち,本件出願1の特許査定時の明細書等…と,本件出願2の明細書等(本件出願2分割時明細書…)とを比較すると,本件出願2分割時明細書は,例えば,指定キープ指示部によって,電源OFF後も加工条件をキープし,次回以降最初に表示される画面に表示することに関する記載が追加されている点(段落【0100】),倍率を指示する「一つ上」や「一つ下」の表示によって,使用頻度の高い加工条件である倍率の設定数を減らし,メニューの設定数を減らすことに関する記載が追加されている点(段落【0105】),登録されたメニューを変更不可にロックする手段を設けることによって,安易なメニュー変更による誤指示を防止することに関する記載が追加されている点(段落【0145】),図7ないし図15及びこれに関連する記載が追加されている点(段落【0041】…)で,本件出願1査定時明細書の記載と相違しており,本件出願2分割時明細書は,本件出願1査定時明細書には存在しない記載事項を含むものであるから,本件出願1査定時明細書に記載された事項の範囲内であるとはいえない…。そうすると,本件出願2は,…②の分割要件を満たさないから,分割要件違反となるものというべきであり,本件出願2には特許法44条2項の適用がない。

…以上によれば,本件特許出願が本件出願3に対して分割要件を満たし,本件出願3が本件出願2に対して分割要件を満たすとしても,本件出願2は本件出願1に対して分割要件を満たしていないから,本件出願2の出願日は,本件出願1の出願日まで遡及せず,現実の出願日…であることとなり,同様に,本件特許出願の遡及する出願日は,本件出願2の出願日…となる。

 

(3)大阪高判平成14年(ネ)第2776号【コンクリート埋設物】事件(未来工業v.日動電工)

*子出願が手続補正の遡及効により、分割要件違反となった。

⇒孫出願の出願日は親出願まで遡及しない。

*子出願の無効が確定したことは、孫出願の出願日が親出願まで遡及するか否かとは無関係である。

<判旨抜粋>

子出願の分割出願についてみると,子出願の…補正は,親出願の出願当初明細書又は図面に記載されておらず,子出願の出願当初明細書又は図面にも記載されていない事項を含み,上記補正後の子出願の明細書は,親出願の出願当初明細書又は図面の範囲内でない事項を含むものであるから,子出願は,親出願から特許法44条1項に基づき適法に分割されたものといえないことになる。そして,子出願は,その後,特許登録され,本件無効審決を経て確定し,もはや,手続補正や訂正審判により…手続補正書による内容を是正する余地はなく,上記補正後の内容で確定したから,子出願は,親出願から特許法44条1項に基づき適法に分割されたものとはいえず,親出願の時に出願したとみなされることはない。そして,親出願の時に出願したとみなされないことから,…子出願の出願日は…補正書を提出した日…とみなされることになる。…この点に関し,原告は,子出願が特許法44条により適法に分割された分割出願であり,…手続補正書による補正により,特許法40条に基づき,出願日が…繰り下がったに過ぎず,子出願の分割自体が不適法,無効となるものでない旨主張するが,…そもそも子出願の分割は分割要件を具備しておらず不適法であることは明らかであって,原告の上記主張は採用することはできない。…

本件出願1(孫出願)は,子出願を親出願とする分割出願としては,その他の分割の要件も満たしているといえるから適法といえる。しかしながら,親出願との関係では,…子出願が親出願から適法に分割されたものとはいえない以上,本件出願1(孫出願)も親出願の時に出願したとみなされることはなく,子出願の時に出願したとみなされることとなり,子出願の出願日とみなされる…日に出願したとみなされることになる。…

孫出願の出願日の遡及の利益の享受は,あくまで子出願の出願日の利益の享受であって,子出願が分割要件を満たして分割が適法に行われることを前提とするものであり,孫出願の出願日が子出願と無関係に本来の分割可能な時期から離れて無限定に 親出願のときまで遡及するものではない。そして,特許法は…補正がその手続の初めに遡って効力を有することを認めており,特許に関する手続はこのような補正の遡及効を前提に運用されている。現に分割出願においても,出願の分割時には原出願に係る発明と分割出願に係る発明が同一であったが,その後に原出願の明細書又は図面が補正され両者の発明が同一でなくなった場合は,分割出願は適法なものとされ,他方,出願の分割時には原出願に係る発明と分割出願に係る発明が同一ではなかったが,その後に原出願の明細書又は図面が補正され両者の発明が同一となった場合は,分割出願は適法でないものとされており,しかも,このような補正の遡及効により分割不適法の事態などが生じる場合でも,補正を行った者はさらにこれを修正する補正を行うことにより不適法理由の解消を行うことなどが可能である。これらの点を考慮すると,親出願,子出願,孫出願と順次分割がされた場合において,子出願から孫出願への分割が分割要件に欠けるところがなかったとしても,子出願についての補正の有無,内容いかんにより,子出願の親出願からの分割がその要件を具備するか否かの帰趨が変動し,そのために,子出願の出願日が変動し,さらに孫出願の出願日が変動するような事態が生じることもやむを得ない…。

 

(4)東京高判平成15年(行ケ)第65号【コンクリート埋設物】事件(未来工業v.日動電工)

*子出願が手続補正の遡及効により、分割要件違反となった。

⇒孫出願の出願日は親出願まで遡及しない。

<判旨抜粋>

…本件において,本件特許出願(孫出願)は,親出願からの分割出願である子出願を更に分割出願したものであるから,孫出願(本件特許出願)及び子出願の各分割出願がそれぞれ特許法旧44条1項の分割要件を満たし,かつ,本件発明1,2が親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には,本件発明1,2の出願日は,親出願の出願日まで遡及することになる。しかしながら,子出願に係る発明は,平成5年10月29日付け手続補正書(甲17)により補正され,親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなり,いったん特許権の設定登録がされた後,当該補正がされた発明のまま,その無効審決が確定し,子出願に係る特許権は,初めから存在しなかったものとみなされた。したがって,当該補正がされた発明はもはや訂正される余地はなく,子出願に係る発明は,親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなったから,子出願が分割の実体的要件を満たさないことは明らかである。そうすると,孫出願の分割の適否を検討するまでもなく,孫出願である本件特許出願の出願日が親出願の出願日まで遡及する余地はない…。…

…子出願…補正は,本来,不適法なものとして却下されるべきものであったが,却下されることなく,当該補正がされた発明のまま,いったん特許権の設定登録がされた後,その無効審決が確定し,子出願に係る特許権が初めから存在しなかったものとみなされた…,子出願が分割要件を満たして分割が適法に行われたものでない…。…

…原告は,さらに,本件特許出願に適用される昭和58年5月特許庁作成に係る審査基準においても,原出願が取り下げられ又は放棄された日と同日に出願された分割出願は適法であり,ただ,原出願が取り下げられ,放棄され又は無効とされた場合に,これらの行為がされた時点での原出願に係る発明と分割出願に係る発明とが同一であるときには,分割出願は適法でないものとするとされており,子出願に係る権利が確定した後に無効になったからといって,孫出願までが無効になるものではないことは,特許庁における運用であると主張する。しかしながら,子出願は,上記のとおり,特許法旧40条により,手続補正書の提出日が出願日とみなされたものであって,子出願が取り下げられ,又は放棄されたとみなされたものではないし,子出願が無効になったから孫出願が無効であるとの判断をしているものでもないことは明らかである。原告の上記主張は,本件審決を正解しないでこれを論難するものにすぎず,採用の限りではない。

 

(5)東京地判平成15年(ワ)第9215号【止め具及び紐止め装置】事件(JP3367651)<三村裁判長>

*分割出願と補正は、同じ範囲で許される。

=東京地判平成10年(ワ)8345【養殖貝類の耳吊り装置】事件<三村裁判長>

<判旨抜粋>

特許出願の分割については,特許法44条1項に,「特許出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限り,2以上の発明を包含する特許出願の一部を1又は2以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定されているが,この分割出願が適法と認められるためには,もとの出願が特許庁に係属し,かつ,もとの出願が2以上の発明を含むものでなければならず,2つ以上の発明を含むということは,単に特許請求の範囲に含まれている場合だけではなく,明細書に2以上の発明が含まれていればよいと解されていること,また,分割出願は,補正をなし得る期間内に出願されることが必要であること(特許法44条1項),さらに,分割出願はもとの特許出願の時にしたものとみなされ(同条2項),新規性・進歩性の判断等については分割出願の基になった特許出願時を基準とすることになることなどにかんがみると,出願の分割は補正(特許法17条)と類似した機能を持つものであるといえるから,分割出願をすることができる範囲についても,もとの出願について補正をすることが可能である範囲に限られるものと解すべきであって(補正の要件を欠く場合にも出願の分割をなし得るとすれば,実質的には分割手続により補正の要件を潜脱することを許すことになり,不合理である。),分割出願の明細書又は図面に,原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲外のものを含まないように解する…。

 

(6)東京地判平成16年(ワ)第14649号【電話の通話制御システム】事件<設樂裁判長>

*分割要件を補正後のクレームで判断した事例(補正の遡及効)~補正要件と同じ論理及び結論

=東京高判平成15年(行ケ)65、Cf.平成28年(行ケ)10114

<判旨抜粋>

…本件出願2第1補正及び第2補正は,顧客が預託金を支払う前に,特殊な交換部のメモリー手段に予め預託金額及び特殊コードを記憶させるという実施例の記載を追加し,「…」という本件出願当初明細書には記載されていない新たな作用効果を奏する発明を追加的に記載したものというべきである。したがって,本件出願2第1補正及び第2補正は,本件出願当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内において,本件分割出願における当初明細書の特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められないから,本件分割出願は旧特許法44条1項の分割出願の要件を満たさないものであり,平成9年5月7日に出願されたものとみなされる。そして,本件出願2第1補正及び第2補正は,本件分割出願の当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものと認めることもできないため,特許法17条の2第3項に反する…。

 

(7)東京高判昭和50年(行ケ)第75号

*補正により分割要件違反が治癒される(補正の遡及効)

(参考)東京高判平成15年(行ケ)65「コンクリート埋設物事件」⇒子出願から分割した孫出願の出願日は,子出願が補正により分割要件を満たさなくなったときは、親出願日まで遡及しない。

⇒子出願の出願日は、手続補正書の提出日!!

<判旨抜粋>

本件特許出願は、その当初の明細書及び図面による限り、原特許出願との関係では、前記技術的事項に関する分割の要件を具備していないから、適法な分割出願であるということはできず、したがつて、出願日の遡及は認められず、現実の出願日である昭和三九年四月二三日に出願したものとして、取り扱われることとなる。

もっとも、本件特許出願に関し、その後の補正によつて、右分割の要件が満たされるに至つたときには、これにより改めて出願日の遡及が認められることとなる場合があるので、本件補正がこの場合に当るかどうかについて検討する。しかして、本件補正が、本件特許出願(分割出願であつて、新たな出願である。)それ自体との関係で、明細書又は図面の要旨を変更するものである場合には、その補正は許されず、本件補正によつて、本件特許出願が前記分割の要件を満たしたことにならないのはもとより、それが原特許出願の当初の明細書又は図面に記載されていた事項の範囲のものであると否とに拘らず、旧法の下において採用することができないのであり、新法の下でも却下されなければならない。…

本件補正は…本件特許出願の当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものでないことが認められる(なお、前掲各証拠によれば、右の点は、原特許出願の当初の明細書又は図面にも、記載されていないことが認められる。)。したがつて本件補正によつて、本件特許出願が前記分割の要件を満たすに至つたとすることはできない。

 

(8)東京地判平成27年(ワ)第8517号【畦塗り機】事件<嶋末裁判長>

*原出願⇒第1世代⇒第2世代⇒第3世代という経緯における第3世代の特許。

*第2世代の出願は取り下げられていたが、第1世代、原出願に出願日遡及できるかは争われなかった。

*東京高判平成15年(行ケ)65、大阪高判平成14年(ネ)2776~子出願が無効であること自体は関係ないとした。

<判旨抜粋>

【被告の主張】

請求項1における「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成(本件補正によって付加された構成),及び「境界部分に沿って設けられた連結片」という構成は,いずれも,本件特許の原出願(特願2014-78397号)の分割(本件特許の出願)直前の明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,これらを併せて「原出願分割時明細書等」という。)に記載された事項の範囲内のものではない…。そうすると,本件特許に係る出願(特願2014-78397号の分割)は,適法な分割出願(特許法44条1項1号)ではなく,その出願日は原出願日に遡及しない。その結果,本件各発明は,本件特許の原出願(特願2014-78397号)に係る公開特許公報(平成26年7月10日に頒布された特開2014-128287号公報〔乙15〕)により新規性又は進歩性(特許法29条1項3号又は2項)を欠くこととなる。

【当裁判所の判断】

原出願分割時明細書等における記載中,「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成に関係する…記載は,当初明細書等の…記載と同じであることが推認できるから…同構成は,原出願分割時明細書等の上記記載から自明な事項であるというべきである。また,「境界部分に沿って設けられた連結片」との構成についても,原出願分割時明細書…の記載から自明な事項であると認められる。…以上によれば,本件各発明についての特許は,適法な分割出願に係るものでないとは認められない…。

 

(9)知財高判平成28年(行ケ)第10263号【配線ボックス】事件(未来工業v.日動電工)<髙部裁判長>

*曾孫特許の分割要件の判断手法(一般)

<判旨抜粋>

分割出願が適法であるための実体的要件としては,①もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,②新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であること,③新たな出願に係る発明は,もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要する。本件出願は,第1出願から数えて5世代目になる分割出願であるため,本件出願が第1出願の出願時にしたものとみなされるには,本件出願,第4出願,第3出願及び第2出願が,それぞれ,もとの出願との関係で,上記①ないし③の分割の要件を満たし,かつ,本件発明が第1出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内のものであること,という要件を満たさなければならない。

 

以 上

 

 

(原告)東日本高速道路株式会社

(被告)有限会社PXZ

【特許★★】特許権侵害訴訟の控訴審において、控訴理由書で新たな無効理由を主張したが、原審で主張できたことを理由として、時機後れと判断された事例 -知財高判令和6年(ネ)第10010号【女性用衣料】事件<中平裁判長>- (第一審・東京地判令和3年(ワ)第18262号<國分裁判長>)

 

 

【本判決の要旨、若干の考察】

1.特許請求の範囲(請求項1)

A 少なくとも女性のバスト部を覆う女性用衣料において、B 前記少なくとも女性のバスト部を覆うカップ部材と、C 前記カップ部材と分離した状態で当該カップ部材の表面側に配置され、前記バスト部の左右の各脇部からバストの側部を覆った状態でバスト下部の中央部にかけて設けられる左右の前身頃部材と、D 前記左右の前身頃部材をバスト下部の中央部近傍で互いに連結するとともに、当該左右の前身頃部材の連結幅を調節可能に設けられた複数の連結部材とを備えたE ことを特徴とする女性用衣料。

 

2.充足論(一審判決/東京地判令和3年(ワ)第18262号【女性用衣料】<國分裁判長>)

広辞苑第6版には、「ともに」という用語の意味は、①「ひとつになって。いっしょに。相連れて。同じく。」と、②「同時に。」の二つが記載されている。被告(被疑侵害者)は、広辞苑に2つの意味が記載されているときは先に記載されている意味がより一般的であると主張したが、認められなかった。

東京地裁は、「広辞苑第6版において、広く一般に用いられる意味から記載するとの編纂方針が採用されていることを認めるに足りる証拠はない。また、…明細書において『連結部材』として具体的例示されているものは…被告…解釈とは相容れない…。」本件特許発明の「ともに」は、②「同時に。」という意味であるとクレーム文言解釈し、充足を認めた。(特許権者勝訴)

 

(判旨抜粋/一審判決)

被告は、構成要件Dの「ともに」について、辞書を編纂するに際し、各語句の意味は、広く一般に用いられるものから記載されるから、広辞苑第6版において最初に記載されている「ひとつになって。いっしょに。相連れて。同じく。」の意味であ…るべきと主張する。しかし、語句の意味をどのようなものから優先的に記述するかは、各辞書の編纂方針によると考えられるところ、…広辞苑第6版において、広く一般に用いられる意味から記載するとの編纂方針が採用されていることを認めるに足りる証拠はない。また、…本件明細書において「連結部材」として具体的例示されているものは、いずれも連結部材同士の連結を解除しなければ、その連結幅を調節できないものであるから、被告が主張する「ともに」との解釈とは相容れない…。

 

3.無効論(時機後れとされたが、一応検討された。)

控訴人が原審で主張していた無効理由

·         乙8文献を主引用例とする新規性欠如・進歩性欠如

·         乙9、乙10文献を副引用例とする進歩性欠如

控訴人が控訴審で初めて主張した無効理由

·         乙31~33文献(米国特許)に基づく新規性欠如・進歩性欠如

 

知財高裁が「時機に後れた」と判断した理由等

1.原審で主張すべき時期があった

·            令和4年8月31日の手続期日で侵害論について心証開示がされた

·            この時点までに新たな無効理由を主張することが可能だった

2.原審では一切提出・主張されなかった

·           「控訴人からは、最後まで乙31ないし33の提出すらなされず」

·           「またそれらに基づく無効論の主張等も一切なされていなかった」

3.主張が困難だった事情がない

·           「乙31ないし33の文献に基づく無効の抗弁を主張することが困難であったことをうかがわせる事情は存在しない」

4.控訴審での提出は訴訟遅延を招く

·           審級が変わったことや代理人が変更されたことは理由にならない

·         5.結論

原審で主張できたのに、しなかったことが「時機に後れた」とされた。

6.「訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえない」

無効理由についての反論がされており、再反論なく口頭弁論終結に至ったことから、訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないとして、無効論について判断した。

 

(判旨抜粋/控訴審判決(本判決))

そこで、まず時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて検討すると、控訴人による当審における新たな無効理由の主張は、令和6年2月6日付け控訴理由書においてなされたものであるところ、特許権侵害訴訟において、無効の抗弁は、特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決するため、特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことなく主張することができるものとされており、特許無効審判とは別の手続である民事訴訟手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不当に遅延させるものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下されるべきである。

  これを基に原審における審理経過についてみると、一審被告である控訴人は、原審において、令和3年10月27日提出の同月22日付け答弁書において、被控訴人製品の本件発明の構成要件該当性を否認するとともに、乙8文献を主引用例とし、これと周知技術との組み合わせないし乙9文献を副引用例とする進歩性欠如の無効理由を主張した。これに対する一審原告である被控訴人の反論等を受け、令和4年3月18日付け準備書面⑶において、乙8文献による新規性欠如の無効理由を追加し、これに対する被控訴人の更なる反論を受けて、令和4年5月27日付け準備書面⑷において、更に乙8文献を主引用例とし、乙10文献を副引用例とする進歩性欠如の無効理由を追加した。これについての被控訴人の反論に対しては、更に令和4年8月29日付け準備書面⑸において反論をした。

  そして、侵害論について当事者が主張立証を尽くしたことを前提とし、令和4年8月31日に行われたウェブ会議の方法による書面準備手続において、裁判所から損害論に審理を進める旨の心証開示を受けて(令和4年8月31日の書面準備手続の経過表には、協議の結果欄に、「当事者双方 侵害論についての主張立証は尽くした。」「裁判長 今後、損害論についての審理を進める。」との記載がある。)、損害論の審理が進められ、令和5年9月22日に行われた口頭弁論期日において、控訴人は他に主張立証することはない旨を陳述し、原審口頭弁論が終結されて原判決が言い渡されたものである。

  こうした原審での審理経過に鑑みると、当審における新たな無効理由の主張は、時機に後れて提出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人には重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から、予備的にではあるものの、当審において提出された無効理由についての反論がされており、これに対する控訴人の再反論の主張はなく当審の口頭弁論終結に至っていることから、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとする。・・・

 

4.若干の考察

原審の主張・立証の経緯は、通常の特許権侵害訴訟における進行であったから、本判決の論理で「控訴理由書においてなされた」新たな無効理由が時機後れと判断されるならば、実質的に、控訴審から新たな主張を成しえないことになりかねない。

一太郎事件(後記)では、一審が短かったこと、新たな主引例が外国語文献であったことを理由として、控訴審から新たな無効理由を主張することが許された。しかし、本事案では、英語文献である乙31発明を主引例とする新たな無効理由を主張することが本来的に時機後れとされた。

本判決のように「最後まで乙31ないし33の提出すらなされず」と判示されてしまうならば、一審の心証開示後でも提出し、主張しておけばよいかというと、別の知財高判では、一審で時機後れ却下されたことを理由に時機後れとしているから、逃れる術がない。

時機後れと別に、本判決のように「訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえない」と控訴審で判断されるためには、控訴理由書で主張を尽くした後、被控訴人からの反論に対し再反論しないという方針がありうる。本件ではそのように進行したため、「訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえない」として無効論が判断された。

そうであるならば、被控訴人としては、控訴理由書で新たな無効理由が主張された場合、それに対し内容を反論せず、時機後れのみを主張するという方針がありうる。もっとも、その時点で控訴審が弁論終結され、無効の抗弁が成立して特許権者逆転敗訴と判断されることは、通常は考え難いとしても、反論しないという方針はリスクを伴うため、念のため反論しておくという方針を採ることが多いであろう。

控訴審で開始した主張と時機後れについては、過去の知財高判では控訴理由書において主張すれば時機後れとされず、控訴理由書より後の準備書面で主張すると時機後れとされた判決が多かったが、本判決は非常に厳しい。他の各知財高判では、控訴審から新たな無効理由を主張しても時機後れとされなかった事案もあることを念頭に置きつつ、総合的に戦略を練るべきであろう。

 例えば、平成28年(ネ)第10100号【魚釣用電動リール】<高部裁判長>は、原審で特許無効の心証開示後に訂正の再抗弁を主張して時機後れ却下されていたが、控訴理由書において、原審で却下された訂正の再抗弁を主張したところ、時機後れ却下されなかった。

同判決は、「原審及び当審における審理の経過に照らすと,より早期に訂正の対抗主張を行うことが望ましかったということはできるものの,控訴人が原判決や審決の予告がされたのを受けて,控訴理由書において訂正の対抗主張を詳細に記載し,当審において速やかに上記主張を提出していることに照らすと,控訴人による訂正の対抗主張の提出が,時機に後れたものであるとまでいうことはできない。」と判示しており、実務的感覚に近い。一審判決が意外な判断であり、それを踏まえた主張を控訴審においてなしうるということは、控訴審の初動である控訴理由書で主張する限り、許されるべきではないだろうか。

 

 

【関連裁判例(控訴審で始めた新しい主張が時機後れ却下された事例)】

1.控訴審の初動(控訴理由書)で主張したが、時機後れ却下された裁判例

知財高判令和6年(ネ)第10010号【女性用衣料】<中平裁判長>(本判決)

*控訴理由書で主張した新たな無効の抗弁が時機後れとされた。(これでは、控訴審から何も新たに主張できない…)

控訴人による当審における新たな無効理由の主張は…控訴理由書においてなされた…。

…裁判所から損害論に審理を進める旨の心証開示を受けて…損害論の審理が進められ、…口頭弁論期日において、控訴人は他に主張立証することはない旨を陳述し、原審口頭弁論が終結されて原判決が言い渡されたものである。…こうした原審での審理経過に鑑みると、当審における新たな無効理由の主張は、時機に後れて提出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人には重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から、予備的にではあるものの、当審において提出された無効理由についての反論がされており、これに対する控訴人の再反論の主張はなく当審の口頭弁論終結に至っていることから、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとする。…進歩性を欠く旨の主張には理由がない。

 

 知財高判平成29年(ネ)第10055号【連続貝係止具】<森裁判長>

*時機後れであるが、次回期日が指定され訴訟の完結を遅延させない。⇒却下せず。⇒新規性×

「控訴人らは,無効理由3(新規性欠如)に係る抗弁を,遅くとも平成29年1月26日までに提出することは可能であったといえるから,これは「時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当することが認められる。

しかし,控訴人らは,本件の控訴審の第1回口頭弁論期日…において,控訴人シンワは,本件特許が出願されたとみなされる日より前に,本件各発明の構成要件を充足する製品を販売したので,本件特許は新規性を欠く旨の主張をしたものであって,上記期日において,次回期日が指定され,更なる主張,立証が予定されたことからすると,この時点における上記主張により,訴訟の完結を遅延させることとなると認めるに足りる事情があったとは認められない。」(※平成29年1月26日は、原審の口頭弁論終結日

 

 知財高判令和5年(ネ)第10071号【チップ型ヒューズ】<宮坂裁判長>

*原審で時機後れ却下された別の請求項の主張が、控訴審でも時機後れ却下された。

「本件請求原因の追加に至るまでの原審における手続等の経緯として、別紙「本件請求原因の追加に至る経緯」記載の事実が認められる。すなわち、被控訴人は、答弁書(令和4年2月28日付け)の段階で、乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示して、均等論の第4要件の充足を争う詳細な主張を提出した。その後、控訴人と被控訴人は、同年11月までに、当該争点に関する議論を含む主張書面を2往復させ主張立証を尽くしてきた。この間の書面準備手続調書には、被控訴人の 「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する」との進行意見が記載されるなど、均等論の第4要件の充足性は、少なくとも本件の中心的な争点の一つと認識されていた。そうして、侵害論に関する主張立証が一応の区切りとなった同月28日のウェブ会議による協議(書面による弁論準備手続に係るもの。以下同じ。)において、裁判所から双方当事者に被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証開示があり、双方は和解を検討することとなった。その後間もなく和解交渉は不調に終わったところ、令和5年1月27日の協議において、控訴人は、消弧作用についての再反論(注・均等論の第2要件関係)及びこれまでの主張の補充等を記載した準備書面を提出すると述べた。ところが、控訴人は、同年2月27日付け準備書面をもって、本件請求原因の追加の主張をするに至った。これに対し、被控訴人は、同年4月13日付け準備書面をもって、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求める申立てをした。

…以上に基づいて、まず、本件請求原因の追加が「時機に後れた」ものといえるかどうかを検討するに、本件において、控訴人が本件請求原因の追加を求めた理由は、請求項1に係る本件発明1の技術的範囲の属否を問題とする限り、被控訴人が提出した公知文献…との関係で均等論の第4要件(公知技術等の非該当)は満たさないと判断される可能性が高いことを踏まえ、本件付加構成を備える請求項3に係る本件発明2を議論の俎上に載せることで、均等論の第4要件をクリアしようとしたものと理解される。しかし、…均等論の第4要件を争う被控訴人の主張は、既に答弁書の段階で詳細かつ具体的に提出されており、これに対する対抗手段として、本件請求原因の追加を検討することは可能であったものである。その後、約9か月にわたり双方が主張書面を2往復させてこの点の主張立証を尽くしていたところ、その後に裁判所からの心証開示を受けた後に、しかも、控訴人自ら、補充的な書面提出のみを予定する旨の進行意見を述べていたにもかかわらず、突然、本件請求原因の追加を行ったものであって、これが時機に後れた攻撃方法の提出に当たることは明らかである。」

 

知財高判平成29年(ネ)第10072号【人脈関係登録システム】<鶴岡裁判長>

*控訴審の初回期日で行った均等論の主張が、時機後れとして却下された。

Cf.平成29年(ネ)10029、平成27年(ネ)10076は、却下しなかった。

当裁判所は,当審の第1回口頭弁論期日において,…均等侵害の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。その理由は次のとおりである。…に関するクレーム解釈や被控訴人サーバの内部処理の態様如何によって構成要件充足,非充足の結論が変わり得ることは,控訴人としても当初から当然予想できたというべきであり,そうである以上,控訴人は,原審の争点整理段階で予備的にでも均等侵害の主張をするかどうか検討し,必要に応じてその主張を行うことは十分可能であったといえる(特許権侵害訴訟において計画審理が実施されている実情を踏まえれば,そのように考えるのが相当であるし,少なくとも控訴人についてその主張の妨げとなるような客観的事情があったとは認められない。)。ところが,控訴人は,原審の争点整理段階でその主張をせず,…「侵害論については他に主張・立証なし」と陳述し,そのまま争点整理手続を終了させたものである。しかるところ,控訴人が,上記のとおり当審に至り均等侵害の主張を追加することは,たとえ第1回口頭弁論期日前であっても,時機に後れていることは明らかであるし,そのことに関し控訴人に故意又は重大な過失が認められる…。

 

Cf.知財高判平成27年(ネ)10076号【円テーブル】<高部裁判長>

*控訴審の初回期日で行った均等論の主張が、時機後れとして却下されなかった(第1回で控訴棄却=特許権者負けだから)

「控訴人の前記主張は,控訴理由を記載した…準備書面に記載されており,被控訴人も認否反論を行い,既に提出済みの証拠に基づいて判断可能なものであった。そして,当裁判所は…当審第1回口頭弁論期日において口頭弁論を終結した。以上によれば,控訴人の前記主張が,『訴訟の完結を遅延させる』(民訴法157条1項)ものとまでは認められず,したがって,時機に後れたものとして却下すべきものとはいえない。」

 

Cf.知財高判平成26年(ネ)第10111号【粉粒体の混合及び微粉除去方法】<高部裁判長>

*控訴審の初回期日で行った均等論の主張が時機後れとされたが、判断した。

「第1審における争点は,専ら構成要件2E及び1Bの充足性であったこと,控訴状には控訴理由の記載がなく,控訴理由書に…均等侵害に係る主張を記載せず,主張の予告もなかったこと,控訴人の第1準備書面が提出されたのは…当審第1回口頭弁論期日のわずか5日前であったことなど,本件審理の経過に照らせば,控訴人の均等侵害に係る主張は,時機に後れたものといわざるを得ない。しかしながら,被控訴人も上記主張に対する認否,反論をしたことに鑑み,均等侵害の成否について以下において判断する。」

 

Cf.知財高判令和4年(ネ)第10078号【片手支持可能な表示装置】<菅野裁判長>

 *原審で訂正の再抗弁を3回主張した⇒控訴理由書で4回目の訂正の再抗弁を主張したが、審理経過に鑑みると、本来であれば時機後れ却下であるとされた。ただ、反論されていることから、判断した。

「原審における審理経過についてみると、控訴人は、原審において、第1回弁論準備手続期日(令和元年11月18日)における本件特許が新規性及び進歩性を欠く旨の無効の抗弁の主張(被告第1準備書面)を受けて、第3回弁論準備手続期日(令和2年7月27日)までに、第2次訂正に係る訂正の再抗弁に係る原告第2準備書面を提出したが、本件無効審判の手続における訂正請求に合わせて、第3次訂正に係る訂正の再抗弁を記載した令和3年3月3日付け原告第5準備書面及び同年5月27日 付け原告第6準備書面を提出した(これらの準備書面は、第4回弁論準備手続期日(令和3年12月16日)において、訂正書面を含めて陳述された。)。原判決は、第2次訂正及び第3次訂正に係る訂正の再抗弁はいずれも訂正要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効とすべきものと判断したところ、控訴人は、控訴理由書で、第4次訂正に係る訂正の再抗弁の主張を追加したものである。こうした原審での審理経過に鑑みると、第4次訂正は、時機に後れて提出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人には重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとする。」

 

2.控訴審で時機後れとされなかった裁判例。(無効審決が出たこと等を理由とした。⇒審決予告まで行っていれば同様の効果が期待できる。)

 知財高判平成30年(ネ)第10033号【スプレー缶製品】<大鷹裁判長>

*原審で却下された無効理由と同じだが控訴理由書で主張。⇒却下せず

…原審の受命裁判官は,被控訴人の上記申立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。特許庁は,…サポート要件違反…及び本件無効の抗弁に係る無効理由が存在するとして,上記特許を無効とする別件審決をした。…

控訴人の当審における本件無効の抗弁の主張は,原審において侵害論の審理を終了し,損害論の審理に入った段階で提出されたため,時機に後れた攻撃防御方法として却下された主張と同旨のものであるが,控訴人は,原審口頭弁論終結前に本件無効の抗弁に係る無効理由の存在等を認めて本件特許を無効とする旨の別件審決がされたのを受けて,当審において再度提出したものであること,控訴人は,控訴理由書に本件無効の抗弁を記載し,当審の審理の当初から本件無効の抗弁を主張していたことが認められるから,当審における控訴人による本件無効の抗弁の主張の提出が時機に後れたものということはできない。また,当審の審理の経過に照らすと,控訴人による本件無効の抗弁の主張の提出により,訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。したがって,…時機に後れた攻撃防御方法として却下することはしない。

 

 知財高判令和1年(ネ)第10066号【情報管理プログラム】<森裁判長>

*原審で却下された無効理由と同じ。⇒却下せず

原審において、乙14発明に基づく新規性欠如の無効の抗弁が時機に後れたとして却下されていた。

⇒一審被告は、控訴審においては、乙14発明を主引例とする新規性欠如の無効の抗弁について、時機に後れたとの主張せず。

⇒新規性欠如で、特許権者逆転負け(★3か月前に同じ知財高裁2部で審決取消訴訟の判決<令和1年(行ケ)10109>があり、新規性欠如の無効審決が維持されていた。)

 

3.その他

知財高判平成28年(ネ)第10100号【魚釣用電動リール】<高部裁判長>

*原審で特許無効の心証開示後に訂正の再抗弁を主張して時機後れ却下されていた。

⇒控訴理由書において、原審で却下された訂正の再抗弁を主張したところ、時機後れ却下されなかった。

「控訴人は,原審において,弁論準備手続が終結されるまでの間,訂正の対抗主張を提出することはなかったが,弁論準備手続終結後に提出された準備書面において初めてこれを主張するに至ったため,原審裁判所により時機に後れたものとして却下され(なお,原審において主張した訂正の内容は,「片手で」との文言の有無の点を除き,当審における訂正の内容と同一である。)。控訴人は,平成28年9月8日に原判決が言い渡されると,同月21日控訴を提起した。他方,同月30日には,本件特許1ないし3に係る各特許無効審判において,審決の予告がされた。そこで,控訴人は,同年11月10日提出に係る控訴理由書において,訂正の対抗主張を記載した。上記の原審及び当審における審理の経過に照らすと,より早期に訂正の対抗主張を行うことが望ましかったということはできるものの,控訴人が原判決や審決の予告がされたのを受けて,控訴理由書において訂正の対抗主張を詳細に記載し,当審において速やかに上記主張を提出していることに照らすと,控訴人による訂正の対抗主張の提出が,時機に後れたものであるとまでいうことはできない。また,本件における訂正の対抗主張の内容に照らすと,訂正の対抗主張の提出により訴訟の完結を遅延させることになるとも認められない。よって,控訴人の訂正の対抗主張を時機に後れたものとして却下することはしない。」

 

知財高判(大合議)平成17年(ネ)10040【一太郎事件】

攻撃防御方法の提出が時機に後れたものとして民事訴訟法157条により却下すべきであるか否かは,当該訴訟の具体的な進行状況に応じて,その提出時期よりも早く提出すべきことを期待できる客観的な事情があったか否かにより判断すべきものであるところ,控訴人が主張する前記事情は,いずれも,被控訴人の請求に係る本件訴訟の具体的な進行状況とは関係のない事情をいうものにすぎない。

原審においては,第1回口頭弁論期日が開かれてから第3回口頭弁論期日において口頭弁論が終結されるまで2か月余り,訴えの提起から起算しても4か月足らずの期間である。このように,原審の審理は極めて短期間に迅速に行われたものであって,控訴人の当審における新たな構成要件充足性及び本件特許の無効理由についての主張・立証は,若干の補 充部分を除けば,基本的に,当審の第1回口頭弁論期日において控訴理由書の陳述と共に行われたものであり,当審の審理の当初において提出されたものである。そして,前記の追加主張・立証の内容についてみると,まず,構成要件充足性に関する部分は,原審において既に控訴人が主張していた構成要件充足性(「アイコン」の意義)に関する主張を,若干角度を変えて補充するものにすぎないということができる。また,本件特許の無効理由に関する部分は,新たに追加された文献に基づくものではあるが,これらはいずれも外国において頒布された英語の文献であり,しかも,本件訴えの提起より15年近くも前の本件特許出願時より前に頒布されたものであるから,このような公知文献を調査検索するためにそれなりの時間を要することはやむを得ないことというべきである。 以上の事情を総合考慮すれば,控訴人が当審において新たに提出した構成要件充足性及び本件特許の無効理由についての追加的な主張・立証が時機に後れたものであるとまではいうことができない。」

 

知財高判平成30年(ネ)第10044号【光学情報読取装置】<大鷹裁判長>

*控訴審の第1回期日4日前の訂正の再抗弁が時機後れ却下された

無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の主張は,本来,原審において適時に行うべきものであり,しかも,控訴人は,当審において遅くとも控訴理由書の提出期限までに訂正の再抗弁の主張をすることができたにもかかわらず,これを行わず,第1回口頭弁論期日の4日前になって初めて,本件訂正の再抗弁の主張を記載した準備書面を提出したのであるから,本件訂正の再抗弁の主張は,控訴人の少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべきである。

 

知財高判平成30年(ネ)第10031号【下肢用衣料】<高部裁判長>

*控訴審の控訴理由書提出期限を経過した後の無効の抗弁が、時機後れ却下された。

…1審被告らは,…控訴理由書提出期限…を1か月以上経過した後で…「控訴理由書⑶」を提出した。…無効の抗弁及び公知技術の抗弁の主張の追加については,民訴法157条1項に基づき時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである。…

上記事情に加え,…当審において追加しようとする無効理由は,…少なくとも6項目に及ぶ。控訴審におけるこれほど多数の無効理由による無効の抗弁の追加は,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものといわざるを得ない。したがって,無効の抗弁の追加主張については,特許法104条の3第2項によっても,却下されるべきものである。

 

知財高判令和3年(ネ)第10084号【印刷された再帰反射シート】<宮坂裁判長>

*控訴審の初回期日で新たな無効の抗弁が時機後れ却下された。

※判決文から、控訴理由書で主張したか不明。

控訴審から開始した進歩性欠如の主張①②が、時機後れ却下された!!

·         原審で主張した主引例+他の副引例

·         原審で主張した主引例の解釈(主引用発明の認定)を変更する主張

 

知財高判令和4年(ネ)第10008号【情報提供装置】<大鷹裁判長>

*控訴審において書面による準備手続終結後に訂正の再抗弁主張⇒時機後れ却下

原審で新規性欠如であったが、特許庁無効審判で維持審決だったため、特許権者は控訴審の最初から訂正の再抗弁を主張せず、控訴審の争点整理手続においても、書面による準備手続が終結するまで訂正の再抗弁を主張しないでいたが、書面による準備手続終結後に訂正の再抗弁を主張した。⇒時機後れ却下<維持審決後に原判決という時系列である以上、予備的に、訂正の再抗弁を主張しておけばよかった。>維持審決が維持と判断した決定的な相違点について、被疑侵害者側がそれをカバーするように主引例との対比の主張を変えて、原判決で新規性欠如と判断された状況であった。

 

知財高判令和3年(ネ)第10094号【…作業用手袋】<菅野裁判長>

*原審で特許無効の心証開示後に訂正の再抗弁を主張して時機後れ却下されていた。⇒控訴理由書において、原審で却下された訂正の再抗弁を主張したが、時機後れ却下された

控訴人は、控訴理由書で、本件発明について訂正する(訂正の再抗弁)旨主張するが、当裁判所は、これを時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。その理由は、一件記録によると、当該訂正の再抗弁は、原審裁判所が本件特許は無効であるとの心証開示をした後にされたものであるため、 原審で時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下されたものであるところ、適宜の時機に原審で主張することができなかった事情は見当たらないから、当審における上記主張は、明らかに時機に後れたものであって、そのことについて控訴人には少なくとも重過失があり、また、この攻撃防御方法の主張を許せば、本件訴訟の完結が著しく遅れることは明らかであるためである。」

 

知財高判令和2年(ネ)第10044号【流体供給装置及び…プログラム】<鶴岡裁判長>

*無効主張が原審の心証開示後であったが、原審の主張整理に問題があった(自白の成否)

⇒充足論と無効論は切り離して考えることはできない。~却下せず

「「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について 無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたものであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われたわけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充足性(非侵害論主張④)及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性(非侵害論主張⑤)に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるものとして扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったといわざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるから,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えられる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行われたといえる。以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時機に後れたものと評価することはできない。」

 

以 上

 

(控訴人)株式会社FLORe

(被控訴人)株式会社MIC

【特許★】サブコンビネーションの相手方の構成等が発明特定事項でないと判断された事例。⇒進歩性× -知財高判令和7年7月10日・令和6年(ネ)第10012号【Rバッジ、受信装置】事件<清水響裁判長>-

(1)サブコンビネーションクレームにおける発明特定事項の認定基準

本判決は、サブコンビネーション発明(多機能システムの一部を構成する装置の発明)の要旨認定において、クレーム中に引用された「他のサブコンビネーション(相手方装置)」に関する事項が、いかなる場合に発明特定事項として参酌されるか(あるいは無視されるか)という判断の指針を示した点で、実務上重要な意義を有する。

本判決は、サブコンビネーションの相手方装置に関する記載について、「当該相手方装置のみを特定する事項であって、請求項に係るサブコンビネーション(自装置)の構造、機能等を特定しない場合」には、発明の要旨認定においてこれを除外(無視)するという判断枠組みを確認した。

すなわち、単にクレーム文言上に相手方装置の限定(例:高機能な携帯電話、アプリDL機能等)が含まれていたとしても、それが当該請求項に係る装置(例:受信装置)自体の構造・機能等に影響を与えない(=特定する意味を有しない)場合には、新規性・進歩性判断の前提となる本件発明の要旨認定から除外(無視)されることが確認された。

 

(2)「構造、機能等」への反映の有無(関連裁判例との対比)

本判決と、後掲の【関連裁判例】(肯定例・否定例)を俯瞰すると、サブコンビネーションクレームが発明特定事項として認められるか否かの分水嶺は、サブコンビネーションの相手方装置の特徴が、自装置の「構造・機能等」を特定(限定)しているかにあるといえる。

①発明特定事項と認められなかった事例(本判決、『情報処理装置事件』判決、『錠及び鍵事件』判決等)

本判決において、携帯電話(相手方)が「アプリをDLして機能追加する手段」や「クレジットカード機能」等を有しているか否かは、受信装置側から見れば、送られてくる識別情報(ID)を受け取るという基本動作において何ら差異を生じさせない。つまり、相手方装置の「内部事情」や扱う「情報の意味内容」が記述されているだけで、両者のインターフェースにおける信号形式や物理形状が変化しない場合、その記載は発明の要旨から除外される。

後掲する『情報処理装置事件』判決においても同様に、サーバが情報を抽出する「根拠(ロジック)」は通知を受ける側の構成を特定するものではないと判断され、『鍵事件』でも、錠の内部構造(タンブラーの仕組み)は鍵の物理形状(窪み)以外を特定しないとされた。

②発明特定事項と認められた事例(『ごみ貯蔵機器事件』判決、『液体収納容器事件』判決等)

他方、後掲する『ごみ貯蔵機器事件』判決では、回転装置の存在がカセットの係合構造や支持状態を直接決定づけていた。また、『液体収納容器事件』判決では、インク容器の発光部とプリンタ本体の受光部がシステムとして協働し、一方が他方の動作を直接制御・検知する関係にあった。

このように、サブコンビネーションの相手方装置の構成が、自装置の構成を「必然的に規定」する場合(物理的な嵌合や、システムとしての不可分な相互作用がある場合)には、発明特定事項として認められる。

 

(3)実務上の指針

本判決を踏まえると、サブコンビネーションクレームのドラフティングにおいては、単に「…という構成を有する(相手方装置)と通信する(自装置)」と記載するだけでは、自装置の構造、機能等を特定(限定)していないとして、発明特定事項とみなされないリスクがある。

サブコンビネーションの相手方装置の特徴的な構成に対応して、自装置側において「どのような信号処理を行うのか(復号、認証等)」、「どのような物理的形状が必要になるのか(嵌合、配置等)」、「タイミング制御がどう変化するのか」といった、自装置自身の構造・機能への「反映」をクレームアップすることが、有効な特許権取得及び行使のために有用である。

さらに進んで言えば、プリンタとインクカートリッジのように、自装置と相手方装置の両方を別々に製造・販売している場合は、其々についてサブコンビネーションクレームを特許化できるように、互いに相手方の装置により構造・機能が特定(限定)される関係になるように設計し、当該構造・機能に何らかの技術的意義を考察して明細書に記載しておくことが、特許出願戦略の一つとして考えられるだろう。

【特許★】請求項中のパラメータの導出方法に関する発明の詳細な説明中の記載が誤りであり、誤記の主張も斥けられ、サポート要件が否定された事例 -東京地判令和5年(ワ)第70114号【自動二輪車のブレーキ制御装置】事件<柴田裁判長>- (控訴審・知財高判令和6年(ネ)第10038号<本多裁判長>同旨)

【本判決の要旨、若干の考察】

1.特許請求の範囲(請求項1)

1A 所謂自動二輪車であり少なくても2つの車輪を有する車両に用いられるブレーキ制御装置であって、1B 該ブレーキ制御装置は、車体速検出装置と、車両挙動検出装置と、ECU(コントロールユニット)と、制動装置と、で構成され、1C 車体速検出装置は、車輪速センサーであって、検出された信号より車両走行速度を得て、1D 車両挙動検出装置は、進行方向に対して左右ロール方向と左右横方向の状態を検出するセンサーであって、該検出された信号により傾斜角速度(Ψ)と横加速度(Gken)を得て、1E ECUは、検出された信号演算と車両挙動に応じた目標制動力演算及び制動装置へ制動指令を行うものであって、1F 前記信号演算として、横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法を少なくとも有し1G1 制動装置は、前記ECUからの制動指令により車両を減速させる機構であって、1G2 エンジンブレーキとブレーキディスクへの加圧減圧の手段を有し、1H 当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の横G(Ghosei)の組合わせにより、車両挙動が判断され、1I 該車両挙動に応じた目標制動力が決定され、前記車輪で制動がされ、制動によりロール方向の挙動の抑制が図られること、を特徴とする車両ブレーキ制御装置。

 

2.本判決

(1)本判決の要旨

本判決は、請求項中のパラメータである「…横Gの導出方法」に関する発明の詳細な説明中の記載が誤りであると判断し、原告(特許権者)の誤記である旨の主張も斥け、サポート要件を否定した。

明細書【0073】には、「Ghosei=Gken−(Ψ・Rhsen)」との式(式A)が記載されている。もっとも、Ψは傾斜角速度、Rhsenはセンサ位置の高さと解されるが、この式は加速度と速度を減算するものであり、次元が一致せず物理学的に意味を持たないと本判決は指摘した。すなわち、式Aは物理的に成立しないため、当業者がこれを用いて実際に補正後の横Gを導出することは不可能であると判断された。

原告は式Aは誤記であり、本来はΨを傾斜角加速度と解すべき式A´であると主張したが、本判決は、本件明細書全体において傾斜角速度Ψを一貫して用いていること、仮に加速度に訂正すると他の記載と整合性を欠き理解不能となる箇所が生じることから、誤記であると一義的に確定することはできないから、原告主張の訂正を前提とすることはできないとした。

 

『当業者は、式Aに含まれる項の次元が異なることから何らかの誤りがあることは理解できるものの、次元の違いによる問題を解消する方法は原告が主張する訂正に限られるものではなく、また、式Aの内容等から、次元の違いによる問題を解消するためには、式A´に訂正する以外の方法はないと当業者が理解できると認めるに足りる証拠はない。さらに、式Aの訂正と整合するように、本件明細書の式Aに関する記載部分を訂正していくと、それまで問題なかった明細書の記載の趣旨が理解できなくなったり、整合しなくなってしまうことが認められる。これらの事情からすると、本件明細書の記載から、式Aが式A´の誤記であると理解できるとはいえない。よって、式Aについて式A´の誤記であると理解できることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。…本件発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であるとはいえず、サポート要件を欠く。』

 

(2)サポート要件違反に関する本判決の判旨抜粋

 『(1) 本件発明1についてア 本件発明1の構成要件1Fは、「前記信号演算として、横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法を少なくとも有し、」というものであり、構成要件1Hは、「当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断され、・・・」というものであり、本件発明1は、算出された補正後の横G(Ghosei)を利用するECUによって車輪を適切に制動し、これによってロール方向の挙動の抑制を図る車両ブレーキ制御装置(構成要件1I)であるとされている。そして、本件発明1は、前記1のとおり、自動二輪車等の制御装置について、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかったという課題を解決して、車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたというものである。これらからすると、構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。ここで、制動指令の前提となる「横G(Ghosei)」は、「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った」(構成要件1F)ものであるとされていることから、「横G(Ghosei)」は、横加速度を検出する加速度センサーの検出値を基に、これに補正をかけて得られる値であると理解できる。もっとも、本件発明1の特許請求の範囲には、「横G(Ghosei)」について、単に加速度センサーの値から「ロールによる影響を取り除く演算を行った」(構成要件1F)と記載するのみで、どのような演算をするかは明示されていない。そうすると、特許請求の範囲には、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載され、その解決のための構成は記載されていないといえる。イ 本件明細書には本件発明の意義として前記1のとおりの記載があり、車両の正確な傾斜角の検出ができず、正確な横Gを検出できなかったという課題を解決して、車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたというものであるとされている。もっとも、本件明細書には、従前は検出できなかった正確な傾斜角の検出をどのようにするかや、その傾斜角が判明した場合に正確な横Gを算出するためにどのような補正を行うかについての記載はない。他方、本件明細書には、センサーによる検出結果を補正して横Gを算出する方法として、Ghosei=Gken-(Ψ・Rhsen)(式A)との記載がある(【0073】)。本件明細書の【0073】では、「Gken」は、実際の走行傾斜時に検出される検出横Gであるとされ、「Ψ」は傾斜角速度、「Ghosei」はΨを用いたGkenの補正後の横Gであるとされていて(なお、「Rhsen」について、本件明細書には定義がないものの、「hsen」について路面とセンサとの距離であることを示唆する記載があったり(【0050】【0058】【0061】、図8、9)、「RはGセンサー#23の実車取付けの高さ(図8bhsen)」(【0063】)との記載、Ψ・Rhsenについて、Rhsenに1を代入した上で「但し、センサー取り付け高さRを1mとする。」との記載(【0074】)があったりすることから、「Rhsen」車体を垂直にしたときのセンサ取り付け位置の高さであることを一応推測できる。)、その「Ghosei」は、本件発明の課題として言及されている「正確な横G」であると理解することができる。そして、式Aは、その体裁から、本件発明の意義(前記1参照)として記載されている、「横Gセンサー」で検出されたGkenと「角速度センサー」で検出されたΨを用いて「正確な横G」を算出する方法を記載した式であると理解できる。しかしながら、「Ψ・Rhsen」からは、傾斜角は算出されないし、式Aから、傾斜角を算出することなく「正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題」が解決されていると理解することもできない。さらに、Ghosei及びGkenは、加速度の次元(長さ/時間2)を有し、Ψ・Rhsenは速度の次元(長さ/時間)の次元を有していることから、式Aは物理学上、明らかに意味を持たない式である(弁論の全趣旨)。そして、本件明細書には、式Aの他に、センサーによる測定値を基に「正確な横G」を算出する方法についての記載はない。ウ 本件明細書によれば、本件発明は、車両制御のためには「正確な横G」の取得が必要であるところ、横加速度を検出する加速度センサーの値をそのまま用いることができないこと、当該値から正確な横Gを算出するためには傾斜角度を取得することが必要だがそれができないことが課題として記載され、本件発明はその課題に対して、車両の傾斜走行状態での正確な横Gを算出したものであるとされており、「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った」という「横G(Ghosei)」についての、当該演算が、本件発明の課題解決の根幹に当たる部分であるといえる。しかしながら、特許請求の範囲には、その演算について、従来の課題を解決するに足りる構成は記載されていない。また、本件明細書の発明の詳細な説明をみても、関係する記載は前記イのとおりである。本件明細書の式A(【0073】)が、一応、上記の演算であると理解することはできるが、他に、関係する記載はない。そして、前記イのとおり、式Aは本件発明の課題とされている傾斜角を算出しない上、そもそも物理学上意味をなさない式であり、当業者はおよそ式Aを用いて車両制御に利用可能な横G(Ghosei)が算出できると理解できるものではない。エ(ア) 原告は、本件明細書の記載は、別紙対比表のとおり誤記があり、正しくは同表の「訂正後」欄記載のとおりであると主張する。構成要件1Fの「演算」については、式Aのみが当たり得るところ、式Aは前記イで認定したとおり、次元の異なる物理量の差し引きをしていることから物理学上意味をなさない式であり、当業者は、式Aに何らかの誤りがあると理解することができるといえる。この点について式Aについて、原告が主張するとおり Ghosei=Gken-(・Rhsen)(式A´)(ただし、「」は傾斜角加速度) の誤記であると理解すれば、減算される物理量の次元が異なるという問題については解消される。しかし、次元を整える目的のみであれば、その訂正の方法は式A´とすることに限られるものではないのであり、他に解消方法を考え得るのであり、その考え得る解消方法が物理法則やそれを踏まえた技術常識等に照らして不合理であることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、式Aの記載のみから、どのような誤記であるかのかが一義的に定まるものであるとはいえない。(イ) さらに、原告は、式Aについて「Ψ」を「」に訂正するに当たって、そのままでは式Aに関する説明が記載されている【0073】のその他の記載と矛盾が生じるため、式Aのみならず、同段落における他の「Ψ」の記載も「」に訂正し、1か所の「傾斜角速度」との記載も「傾斜角加速度」に訂正するものとしている。しかし、原告が主張する訂正により、訂正後の【0073】は、「この補正後の横G(Ghosei)は、(0063)式のGkenから傾斜角加速度()を用いた補正であり、(0067)の式に対して、傾斜角が変化しない状況である。すなわち、式の「・Rhsen」の項については、ゼロとなることから二つの式を整理し記述すると、・・・」との記載を含むことになるが、傾斜角加速度()がゼロであっても、傾斜角速度(Ψ)がゼロでないとき(定速傾斜時)は傾斜角が変化する状況なのだから、傾斜角加速度()に関する項「・Rhsen」がゼロであることは直ちに「傾斜角が変化しない状況」を意味するものではないから、原告が主張する訂正をすると同記載部分の趣旨が理解できなくなってしまう。他方で、当該箇所について、「Ψ」を()に訂正しなければ、その内容は理解可能である。同様に、原告が主張する訂正後の【0073】の「・・・この様に、式の「・Rhsen」の項について、ゼロにしたデーターは、定常円旋回時に得られたデーターと呼ばれることがある。・・・」との記載についても、定常円旋回時には、傾斜角が一定になるため、「傾斜角速度」が0になるところ、「傾斜角加速度」に関する項が0になっても、「傾斜角」が変化しないとは限らない(傾斜角加速度が0の場合には、定速傾斜の場合も含まれる。)のであるから、訂正すると同記載部分の趣旨が理解できなくなってしまう。この点についても、当該箇所について訂正しなければその内容は理解可能である。さらに、式Aは、測定された加速度(Gken)を角速度(Ψ)の値によって補正する式であるといえるが、これは、「走行時の横Gセンサーと角速度センサーを関連付けることによって、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題を解決」(前記1)という本件明細書に記載されている課題解決の基本的な方法として明示されている手法に文言上最も沿うものである。他方、式Aを式A´に訂正すると少なくとも直接的にはこれに文言上最も沿うものとはいえない内容になってしまう。(ウ) また、原告は、誤記を訂正した後の【0063】の記載によれば、傾斜走行時に検出される検出横G(Gken)には、ロール速度の変化の影響である加速度成分(・Rhsen)が重畳されていること、重畳された当該加速度成分は、傾斜角速度センサーの速度変化である傾斜角加速度()を減算することで取り除くことができることが分かるなどと主張する。しかし、前記イで説示したとおり、本件明細書においてセンサーで取得した加速度の値を修正して得られる制御に用いる加速度として言及されているのは【0073】の横G(Ghosei)のみであり、【0063】には、本件発明1の「横G(Ghosei)」の算出方法は記載されていない。仮に、【0063】に本件発明1に係る「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算」が「・Rhsen」を減算する趣旨であることを示唆する記載があると評価できるとしても、【0073】の方がより直接的な制御に用いる修正後の加速度を算出する方法に関する記載であると評価できるにもかかわらず、式Aについては、前記イで説示した問題がある。また、【0063】には、Gken=g・cosΦ・tanρ-Ψ・Rhen(訂正後は「Gken=g・cosΦ・tanρ+・Rhsen」)という式が記載されており、訂正後の式には「・Rhsen」という項が含まれているものの、これを減算(訂正後は加算)した「g・cosΦ・tanρ」が物理学上、本件発明で算出することが課題とされている「正確な横G」に当たり、同物理量が判明すれば「正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題」を解決できるものと理解できると認めるに足りる証拠はない。そうすると、仮に【0063】の記載が原告の主張するとおりの誤記であると認定できるとしても、当該式のみからでは、センサーによる検出値である「Gken」から「・Rhsen」を減算することが課題解決につながり、構成要件1Fの「ロールによる影響を取り除く演算」に当たるものであると理解できるとはいえない。また、原告の主張中には、【0063】より前の【0061】、【0062】の記載から【0063】の記載が誤記であることが理解できると主張する部分があるが、【0061】、【0062】にも多数の誤記があり、「Ψ」と「」に関する誤記のみならず「-」と「+」に関する誤記まであり、どの部分が誤記であるのか容易に理解できるとは認め難い。もともと、本件明細書では、その全体にわたって、その説明の当初から基本的に一貫して加速度の次元の物理量から角速度(周速度)の次元の物理量を加算ないし減算するという式を前提とする内容で説明が記載されていて、前記エで説示したとおり、当該式に直接関連しない部分についてもこれと矛盾しない内容になっていた。そのような本件明細書について、当該式を訂正すると別の部分と矛盾が生じる内容になっている。これらからすると、当業者は、本件明細書に記載の誤りがあることを理解するとしても、本件明細書において、本来どのようなことが記載されようとしていたのかや、どの部分がどのような誤記であるかを理解することができるとは認められない。(エ) 以上のとおり、当業者は、式Aに含まれる項の次元が異なることから何らかの誤りがあることは理解できるものの、次元の違いによる問題を解消する方法は原告が主張する訂正に限られるものではなく、また、式Aの内容等から、次元の違いによる問題を解消するためには、式A´に訂正する以外の方法はないと当業者が理解できると認めるに足りる証拠はない。さらに、式Aの訂正と整合するように、本件明細書の式Aに関する記載部分を訂正していくと、それまで問題なかった明細書の記載の趣旨が理解できなくなったり、整合しなくなってしまうことが認められる。これらの事情からすると、本件明細書の記載から、式Aが式A´の誤記であると理解できるとはいえない。よって、式Aについて式A´の誤記であると理解できることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。・・・』

 

(3)控訴審・知財高判令和6年(ネ)第10038号<本多裁判長>における補充主張部分

『控訴人が主張する「戻り角(ρ)」に着目すると、発明の詳細な説明には「ハイブリットセンサー20には、進行方向の加速度を検出する加速度センサー21、進行方向ロール速度を検出する傾斜角速度センサー22及びロール方向の加速度を検出する加速度センサー23が小型に内蔵されており、ライダーの体重を含めた合成重心に近いところにレイアウトされる。ハイブリットセンサー20には、傾斜時に生じる理論バンク角(Φ)及び傾斜によってタイヤでの荷重接地点変化から生じる戻り角(ρ)が同時に存在している。(図8も同時参照)センサー20に生じる力(ベクトルA)と実際に生じる力(ベクトルAʼ)とはずれが生じている。このずれ角(戻り角(ρ))によって、正確な横Gを検出することが解析された。」(【0060】)、「Gken=g・cosΦ・tanρ-Ψ・Rhenと変形でき、シンプルな式になる。ここで、表されるΦは車両の理論バンク角度であり理論傾斜角でもある、傾斜角速度センサー22から検出される角速度Ψ(rad/sec)を時間積分して得られた角度であり、ρは傾斜戻り角であり、RはGセンサー#23の実車取付けの高さ(図8bhsen)をそれぞれ示している。」(【0063】)との記載が認められるが、この記載は、「横加速度(Gken)」を解析した結果として、傾斜角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度Ψ等を用いた式で表すことができることを示すに尽きるのであり、他方で、特許請求の範囲の記載において、本件発明1の「横加速度(Gken)」は「横加速度を検出する加速度センサー」により検出されたものとの特定がされているものの、傾斜角Φ、傾斜戻り角ρ、傾斜角速度Ψ及びRhenに基づき、Gken=g・cosΦ・tanρ-Ψ・Rhenという演算から導き出されたことは特定されていないから、控訴人の主張はその前提を欠く。また、仮に「横加速度を検出する加速度センサー」により検出された「横加速度(Gken)」を正確な横Gであるとするならば、正確な横Gの検出は「横加速度を検出する加速度センサー」が本来的に備えている機能であり、正確な傾斜角の検出とは無関係である。そうすると、控訴人が主張する「①「走行時の横Gセンサーと角速度センサーを関連付けること」及び「正確な傾斜角の検出」によって、走行状態での「正確な横G」の検出を可能とすること」という課題とは矛盾することにもなるから、控訴人の主張は本件明細書の記載とは整合しない独自の見解であって採用することはできない。』

 

3.若干の考察

 サポート要件は、「・・・特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」を検討して判断する。

 ここで、発明の詳細な説明の記載は、特に反論が提起されない限り一応正しいものとして扱われ、当業者が発明の課題を解決できると認識できるとして、サポート要件が認められる。

 これに対し、発明の詳細な説明に記載されたメカニズム、作用機序、実施例・比較例等に誤りがある、または、クレームされた全範囲にわたりそれらが及ばないと主張された場合は、立証責任は特許出願人・特許権者に課され、立証できずにサポート要件、実施可能要件、発明該当性が否定された裁判例はいくつかある(下掲)。進歩性については、立証責任は無効を主張する者に課されるが、独立要件説・総合考慮説にかかわらず、容易想到性が不利な場合に予測できない顕著な効果で逆転することを企図するときには、立証責任は、特許出願人・特許権者に課されるところ、明細書に記載された効果が誤りであるとされて、予測できない顕著な効果が否定され、進歩性が否定された裁判例もある(下掲)。

なお、発明の詳細な説明中の記載が科学的に誤りである(自然法則に反する)ことの主張は、追試、公知文献(出願日後でもOK)、専門家意見書等により立証することが多い。

 

 

【関連裁判例(発明の詳細な説明中の記載が誤りであるとして、特許要件が否定された裁判例)】

1.サポート要件、実施可能要件を否定した裁判例

(1)知財高判平成17年(行ケ)第10645号【密封包装物の検査方法】<塚原裁判長>

特許法36条4項及び6項違反についての審決の判断…

段落番号【0008】に,『これにより,密封包装物3の側面部31に高圧電源6の電圧出力端子からの電極4を接触ないし近接せしめるとき該密封包装物3内の導電性を有する内容物1は,電極4にかかる高電圧(0.6kV~30kV)のマイナス又はプラスの電位により帯電してマイナス(-)イオン又はプラス(+)イオンが発生する。』と記載され,図1にはマイナス(-)イオンのみが内容物全体に発生したように図示されているが,この『マイナス(-)イオン又はプラス(+)イオン』がどのように発生したのか不明であり,当業者は容易にこのことを実施することができない。すなわち,閉回路がなく変位電流が流れず,あるいは,密封包装物3の側面部31を電荷が移動しないのであれば,マイナス(-)イオン又はプラス(+)イオンを発生させるための電荷はどこから供給されるのかが不明である。もし内容物の外部から電荷が供給されずに内容物にマイナス(-)イオン又はプラス(+)イオンが発生するというならば,電荷保存則に反している。

当裁判所の判断

本願発明のように,「該密封包装物3の側面部31に…単一の電極4を接触ないし近接せしめて…該密封包装物3内の内容物1に電気絶縁性被膜2を介して帯電せしめ」ることは,電荷保存則に反し,何人にも実現することが不可能であるから,このような発明は不明確であるといわざるを得ず,また,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない…。

 

(2)知財高判令和3年(行ケ)第10094号【PCSK9(二次訴訟)】<菅野裁判長>

*(特許権者が主張した)本件発明の技術的意義が成り立たないことを立証成功!!

⇒サポート要件×

…31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定した点に本件発明の技術的意義がある…。…このような抗体全般が31H4抗体と類似の機能的特性を示すことを裏付けるメカニズムについての説明が見当たらない以上、本件発明の「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する抗体」が31H4抗体と「類似の機能的特性を示す」ということはできない。…

当業者において、31H4抗体と競合する抗体が結合中和抗体であるとの理解に至ることは困難というほかない。

…博士が、31H4抗体と競合する抗体…の全てが結合を中和する効果を有するだろうというのは確実に誤りである。」旨の意見を述べている。…以上によれば、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合するものとは認められない。

 

(3)知財高判平成28年(行ケ)第10064号【ポリビニルアルコール系重合体フィルム】<森裁判長>

*発明の物質であれば種類を問わず課題を解決できると認識不可

※発明の詳細な説明に「本発明者は、…水に溶解させた際のpHが一定範囲にあるPVA系重合体フィルムにより上記目的が達成されることを見出し…た。」と記載されていたが、当該メカニズムが認識できないと判断された。

…当業者が,界面活性剤として本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物を採用し,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.3質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「3.6~6.2」とした実施例において,30℃長期保管試験及び80℃短期保管試験において,黄変の抑制効果が得られたことが開示されていることに接した場合,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」であれば,その種類を問わず,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.001~1質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「2.0~6.8」とすることにより,常温長期保管時の黄変を抑制し得るPVA系重合体フィルムを提供するという本件訂正発明1の課題が解決できることを認識することができるとは認められない。そうすると,本件訂正発明1は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件訂正明細書において本件訂正発明1の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものということはできない。」

 

(4)知財高判平成27年(行ケ)第10201号【容器詰飲料】<清水裁判長>

*課題を具体的に認定した⇒サポート要件×

実施例から課題解決メカニズムを読み取れない。

※発明の詳細な説明に「本発明者は,イソクエルシトリン及びその糖付加物とともにアルコール類をそれぞれ特定量含有せしめ,更にpHを特定範囲内に調整することで,長期間にわたって保存しても色調が変化し難く,外観が保持される飲料が得られることを見出した。」と記載されていたが、当該メカニズムを当業者が認識できないと判断された

「…当業者において,本件明細書の実施例・比較例の条件において,L-アスコルビン酸に加え,イソクエルシトリン及びその糖付加物が配合されていることから,L-アスコルビン酸の褐変が生じない(したがって,本件明細書の実施例・比較例の飲料の色調変化には,L-アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化は含まれない。)と理解するものとはいえない。…

以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願日当時の技術常識に照らして,本件訂正発明9~16は,容器詰飲料に含まれるイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化を抑制することにより,当該容器詰飲料の色調変化を抑制する方法を提供するという課題を解決できるものと,当業者が認識することができるとはいえない。」

 

(5)東京高判平成12年(行ケ)第176号【連続成形トリミング方法】

*明細書に記載が無い場合の立証責任

⇒明細書の記載が不十分であった場合に、記載不備と判断した。

「明細書の記載が当業者なら説明不要の周知技術であるか否かが争点となったときは,それを主張する側(出願人)が裁判所をして認定可能なだけの主張・立証を尽くさなければならず,立証がない限り裁判所は『明細書の記載に不備あり』として扱う」

「発明の詳細な説明には,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,上記構成が記載されていなければならない…。もっとも,特許請求の範囲に記載されたところが,当業者にとって,その文に接しさえすれば,それ以上に格別の説明はなくとも容易に実施することのできるという程度の技術である場合には,例外的に,必ずしも,その説明を明細書に記載する必要はないとするのが,上記条項の設けられた目的に照らし,合理的な解釈であるというべきである。しかし,審決取消訴訟において,特許請求の範囲に記載されたところが上記の程度の技術であるか否かが争われるに至った場合には,特許請求の範囲に記載されたところが上記の程度の技術であることを主張する側において,当業者ではない裁判所であってもそのように認定することができるだけの主張立証をしない限り,裁判所としては,明細書の記載に不備があるものとして扱うほかない…。」

 

(6)知財高判平成25年(行ケ)第10250号【ポリイミドフィルム】

*実施可能要件の立証責任は出願人

⇒実施可能要件を巡り,「実施可能性(技術的正確性)については本来出願人が主張立証責任を負う。本件明細書は熱膨張係数を小さくするための具体的指針を欠くのに,被告(出願人)は具体的な立証を行っていない」

「…本件明細書は,具体的に溶媒含量,温度条件,延伸速度等をどのように制御すれば熱膨張係数が本件発明9の程度まで小さくできるのかについて具体的な指針を何ら示していない。本来,実施可能要件の主張立証責任は出願人である被告にあるにもかかわらず,被告は,本件発明9の熱膨張係数の範囲を充足するODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの製造が可能であることについて何ら具体的な主張立証をしない。…」

 

2.発明該当性を否定した裁判例

(1)東京高判平成15年(行ケ)第166号【…アトピー性皮膚炎治療用の外用剤】<塚原裁判長>

本件明細書…においては,本件臨床試験結果が記載されてはいるものの,①本件臨床試験が実際にされたこと,②本件臨床試験に使用された薬剤が,真実…外用軟膏剤及び外用クリーム剤であったこと,並びに③本件臨床試験の結果が本件明細書に正確に記載されていることを認めるに足りる証拠はないというほかなく,また,本件臨床試験以外のものについて被告が主張する諸点を検討しても,本件薬剤に治療効果があることを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件発明の技術内容(技術手段)によってその目的とする技術効果を挙げることができるものであることを推認することはできないのであるから,本件発明とされるものは,発明として未完成であり,特許法29条1項柱書きにいう「発明」に当たらず,特許を受けることができない…。」

 

3.進歩性を否定した裁判例(一次判決と異なり、予測できない顕著な効果が否定された)

(1)知財高判平成24年(行ケ)第10419号【カルベジロール(二次判決)】<設樂裁判長>

⇒(進歩性の顕著な効果に関する判示であるが、)明細書中の実施例に記載された効果が、出願日後の文献等により否定された事例。進歩性×

「米国カルベジロール試験は,治療期間が短いこと等により,その結果の信頼性が低いものであることは,前記説示のとおりである。したがって,米国カルベジロール試験においてプラセボと比較して優位な効果が確認できたことにより試験が中止されたからといって,本件発明に顕著な効果があるということはできない。」

 

(原告)個人

(被告)ヤマハ発動機株式会社

令和7年(ネ)10001『フルボ酸製造方法関連特許使用料』<本多裁判長>

令和7年(ネ)10001『フルボ酸製造方法関連特許使用料』<本多裁判長>

⇒被控訴人の解除は有効

契約書7条の趣旨は、「本日締結した特許専用実施権契約の対象特許・特願の中には、将来、登録庁で登録保全ができない瑕疵が存在する可能性もある」ことを関係会社3社が認識しているという注意条項に過ぎない。⇒「登録できない/拒絶される可能性がある」という将来の不測の事態に備えたリスク認識の条項であり、現に契約締結時点で本件特許権1・3について共有者から実施権許諾権限を取得していない(すなわち、そもそも実施許諾義務の履行が不可能な状態にあった)というような債務不履行の責任を免除する条文ではない。本件契約の主目的は「特許専用実施権の譲渡+通常実施権の再許諾」なのであり、この主たる給付が履行されない場合にまで「債務不履行にはならない」と読めるほどの免責条項を、7条の抽象的な文言から導くのは不自然である。

⇒控訴人が7条から読み込もうとした「免責」効果は否定された。

令和5年(行ケ)10147【RNA依存性標的DNA修飾】<清水響裁判長>

令和5年(行ケ)10147【RNA依存性標的DNA修飾】<清水響裁判長>

 

*第1出願書類全体の記載及び出願時の技術常識に基づき、実質的にみれば開示されていたというべきであり、本件発明は、パリ条約4条A項により第1出願に基づく優先権主張の利益を享受することができる。

 

(判旨抜粋)

原告は、PAM配列は周知技術とはならないと主張する。しかし、細菌(原核生物)のCRISPR/Casシステムを利用したDNA切断にPAM配列が必要であることは、本件優先日当時、多くの文献に記載され、当業者には周知であった。文献やこれに整合する第1出願書類からすると、Cas9の種類によりPAM配列が異なることや、その具体的な配列も、明らかにされていた。PAM配列が、真核細胞においては不要と考えることが通常と窺わせる事情もない。そうすると、本件優先日当時、真核細胞において、CRISPR/Cas9システムを利用してDNAを切断する際も、標的DNA配列の下流にPAM配列が存在する必要があるということは、当業者の技術常識であった。

原告は、NLS・コドン最適化は周知技術ではなかったと主張する。しかし、本件優先日時点で、CRISPR/Cas9システムにおけるNLS・コドン最適化は、必須の技術ではなかったが、いずれも、多くの文献において実施が報告されており、CRISPR/Cas9システムにも応用可能な周知技術であった。

真核細胞への適用について、第1出願書類の記載に基づき、過度の試行錯誤を要するまでもなく、本件発明を実施することができると認められるのであれば、開示としては十分である。原告が指摘するメールの内容等は、いずれも通常の試行錯誤の過程における仮想的な可能性や懸念について意見交換等しているものにすぎず、それだけでは、当業者において、過度の試行錯誤を要するような障壁があったことを認めることは困難である。むしろ、本件発明者らが第1優先基礎出願に係るCRISPR/Cas9システムを刊行物(乙12・2012年6月28日)に発表した後、2012年10月から2013年1月までの短期間に、多くの研究者により、CRISPR/Cas9システムを真核細胞に適用しゲノム編集ができたことが報告されており、このことは、当業者において、第1出願書類の記載に基づき、過度の試行錯誤を要するまでもなく、本件発明を実施することができたことを示すものである。

 

東京地判令和7年(ワ)70003【喫煙具用カートリッジ】<澁谷裁判長>

東京地判令和7年(ワ)70003【喫煙具用カートリッジ】<澁谷裁判長>

*訴訟手続中で損害賠償請求権を放棄した。⇒差止請求の税関手続きが残っているが、損害賠償請求権不存在のみを主張する不存在確認訴訟は、即時確定の利益なし。

(判旨抜粋)被告は、本件各訴え提起後の令和7年2月27日、原告らに対し、本件損害賠償請求権を放棄し、同請求権を行使しない旨通知し、また、同年4月23日に行われた本件第2回口頭弁論期日において、本件損害賠償請求権を放棄し、訴訟内外を問わず、撤回、取消し又は無効の主張を行わないと陳述したことが認められる。以上によれば、被告の原告らに対する本件損害賠償請求権が存在しないことは被告の自認するところであり、この点について、現に当事者間に紛争が存在し、原告らの有する権利又は法律上の地位の不安、危険が存在しているとはいえず、即時確定の利益があるとは認められない。

本件各訴えは、本件損害賠償請求権の不存在の確認を求める訴えであって、たとえこれを認容する判決が確定したとしても、本件特許権の侵害の有無に係る理由中の判断が既判力をもって確定されるものではないから、被告が原告らに対し本件特許権に基づく差止請求権や別件訴訟に係る請求権を行使することは妨げられない。かえって、原告らは、被告による本件特許権の侵害に基づく本件製品についての差止請求権を争うためには、端的に当該差止請求権の不存在確認請求訴訟を提起することができるのであるから、本件損害賠償請求権が存在しない旨の確認判決を得ることが、原告らの権利又は法的地位への危険又は不安を除去するために必要かつ適切であるということはできない。なお、原告らは、被告が損害賠償の一部請求訴訟を提起する場合と原告らが差止請求権の不存在確認請求訴訟を提起する場合とで印紙代の負担に差異があるなどとも主張するが、かかる事情は即時確定の利益に直ちに影響を与えるものではなく、上記判断を左右するものではない。

【商標/ドメイン】東京地判令和5年(ワ)70022『Legal Force』事件<髙橋裁判長>

【商標/ドメイン】東京地判令和5年(ワ)70022『Legal Force』事件<髙橋裁判長>

米国法人である被告が同商標を付して英語でサービス提供する行為につき、商標権侵害等を請求した。⇒被告のウェブサイトが日本の需要者を対象としていないこと等を理由に、日本の国際裁判管轄権を否定し、訴えを却下した。

※日本在住の米国弁護士は利用していないのか?

~被告の商標登録出願業務に関する日本の顧客について 『被告が日本の顧客44名について商標登録出願をしたことが認められる。』 『legalforcelawウェブサイトには、「LegalForce RAPCは、世界100カ国以上のクライアントを代理しています。」「米国以外では、LegalForce RAPC Trademarkiaの上位出願国は以下のとおりである。/(・・・中略・・・)日本 97/」「LegalForce RAPCは、2009年以降、世界88カ国での商標出願を支援している/(・・・中略・・・)日本」との記載が英語でされている』『本件被告ウェブサイトにおける「AIに基づく契約書及び電子メールアカウントのレビュー」について、日本国内の利用者にサービスを提供していることを示す証拠は見当たらない』⇒日本で本件被告ウェブサイトにおける「AIに基づく契約書及び電子メールアカウントのレビュー」を利用している者が存在すれば、結論を左右したか!?

一方、日本のドメイン名(.jp)の使用に関する請求については、ドメイン管理機関が日本にあることから管轄権を認めた。もっとも、被告は原告より先に米国で当該名称を使用しており、ドメインを自社の業務サイトへ自動接続させることは正当な目的であるとして、不正競争防止法上の「不正の利益を得る目的」や「他人に損害を加える目的」を否定し、請求を棄却した。

中間判決・令和6年(ネ)10034【弾塑性履歴型ダンパ】<本多裁判長>

中間判決・令和6年(ネ)10034【弾塑性履歴型ダンパ】<本多裁判長>原審・東京地判令和3年(ワ)15964を変更し、被告製品の一部について特許権侵害を認めた。

構成要件Gは、「前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行うこと」と規定されている。原審は「入力」を橋軸方向等の特定方向の水平力に限定するように解して非充足と判示したが、知財高裁はこれを否定した。本件訂正後の特許請求の範囲及び本件訂正明細書の記載によると、本件訂正発明1は…「板状の一対の剪断部」を「互いの向きを異ならせて設け」た構成としたものであり(【0007】)、「剪断部」に対する「入力」の方向については何ら限定していない。そうすると、構成要件Gにいう「入力」は、「剪断部」に対して外部から与えられる荷重であれば足り、特定の方向に限定されるものではないと解するのが相当である。そして、前提事実によると、被告ダンパが備える各ウェブ部は、「入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う」ものであると認められるから、被告ダンパは構成要件Gを充足する。

構成要件D「一対のプレート」被告Σ形ダンパ1~4は、平行板部及びウェブ部の一端が垂直板部に溶接されており、垂直板部は、耐力パネルを構成する柱にボルトで固定されている。他方、平行板部及びウェブ部の他端は、耐力パネルを構成する鋼管(被告Σ形ダンパ1~3)又は溝形鋼(被告Σ形ダンパ4)に直接溶接されていることが認められる。垂直板部と鋼管又は溝形鋼が、二個で一組となる金属を薄く平たくしたものということはできないから、被告Σ形ダンパ1~4は、「一対のプレート」を備えていると認められない。被告Σ形ダンパ5を構成するウェブ部及び平行板部は、2枚の接続プレートに挟まれた形で配置され、ウェブ部及び平行板部の両端はそれぞれ接続プレートに直接溶接されているところ、2枚の接続プレートは、同じ形状の長方形の金属板であって、ウェブ部及び平行板部を挟む形で左右両側に配置されているから、これらが「一 対のプレート」に該当すると認められる。被告Σ形ダンパ6が用いられた耐力パネルにおいて、被告Σ形ダンパ6を構成するウェブ部及び平行板部は2枚の補剛材に挟まれた形で配置され、ウェブ部及び平行板部の両端はそれぞれ補剛材に直接溶接されていることが認められる。上記2枚 の補剛材は、同じ形状の長方形の金属板であって、ウェブ部及び平行板部を挟む形で左右両側に配置されているから、これらが「一対のプレート」に該当する。

東京地判令和6年(ワ)70283【予約管理装置】<杉浦裁判長>

東京地判令和6年(ワ)70283【予約管理装置】<杉浦裁判長>

本件特許発明は、予約管理装置(サーバ)が、店舗端末の操作に応じて、受信した画像データを画像印刷装置(プリンタ/FAX)に送信する。流れ:サーバ → プリンタ

被告のシステム:サーバは画像データを薬局端末(PC/タブレット)に送り、薬局端末がプリンタにデータを送信して印刷する構成。サーバはプリンタと直接通信していない。流れ:薬局端末 → プリンタ

予約管理装置が「別の装置を介して」送りさえすれば足りるといった拡張解釈は、明細書に根拠を欠く。

(判旨抜粋)『特許請求の範囲の記載によれば、予約管理装置が別の装置を介して画像データを画像印刷装置に送信することをも含むことをうかがわせる記載はない。また、本件明細書を見ても、…予約管理装置から処方箋画像データを送信され、当該画像データが表示された店舗端末において、判読可能指示等を予約管理装置に送信することなく、利用者の店舗端末に対する操作により店舗端末から直接的に画像印刷装置により画像データを印刷する構成が含まれることを開示又は示唆する記載も見当たらない。』

大阪地判令和6年(ワ)4500【買物決済システム】<松阿彌裁判長>

大阪地判令和6年(ワ)4500【買物決済システム】<松阿彌裁判長>

本件特許発明の「カメラ」は画像(映像)を取得して商品を識別するためのものである。他方、被告製品の「バーコードスキャナー」は、画像ではなくバーコード情報(コード)を取得するものであり、機能が異なる。⇒非充足

本件特許発明は、カメラと「顧客端末」を特定のID等で紐付けることを求めている。しかし、被告製品は会員番号(顧客識別情報)のみで店舗端末(カート)と対応関係を作っており、顧客端末自体との技術的な「紐付け」は行っていない。⇒非充足

本件特許発明は、カメラ画像から商品識別ができない場合に「異常」とする。他方、被告製品は、スキャン無しでカゴに入れた際の「重量センサーの変化」で異常を検知するものであり、画像識別の成否によるものではない。⇒非充足

(判旨抜粋)本件明細書の記載及び当業者の通常の理解によると、本件発明の「カメラ」は、光学系を用いて被写体の映像を撮影素子等の面上に結ばせる装置(広辞苑(第7版)参照)をいうものと認められる。被告製品のバーコードスキャナーについて被告製品のバーコードスキャナーが、上記のような機能を果たすことを認めるに足りる証拠はなく、また一般に、バーコードスキャナーは、バーコードに化体した「情報」を取得するものであって、「画像」を取得、すなわち撮像をしないから、被告製品のバーコードスキャナーが構成要件Bにいう「カメラ」に該当することはない。・・・構成要件Dにおける「紐付け」の技術的意義に係る原告の主張は判然としないが、本件発明1は、購入しようとする商品の撮像情報をカメラが管理サーバに送信し(構成要件E)、管理サーバが商品の識別結果を顧客端末に通知すること(構成要件F)を構成要素とするものであり、その前提としてカメラと顧客端末の対応関係を確立することをいうものと解される。この点、原告は、被告製品は、構成要件Fに係る処理が「店舗端末」で行われること(顧客端末では行われないこと)を争わないところ、前記のとおり、被告製品は、顧客端末がなくとも正常に買物が可能であること(顧客端末が被告製品の技術思想を実現するのに必須の構成ではないこと)も考慮すると、店舗端末が対応関係を確立するのは顧客識別情報(会員番号)のみであると認められ、これを超えて、「顧客端末」と、店舗端末のバーコードスキャナーが、上記の意味で「紐付く」ものとは認められない。

令和6年(ネ)10068【もれ防止用シール材】<清水響裁判長>

令和6年(ネ)10068【もれ防止用シール材】<清水響裁判長><原審・大阪地判令和4年(ワ)9112、11173<松阿彌裁判長>と、同じ論点、同じ結論。>

「地糸の経糸または緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされている」こと(構成要件1C)⇒「径」は、製品状態ではなく、原糸状態で測定する。⇒非充足

「使用状態では、回転体の回転方向に対し、該配列の方向が該予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、該配列の方向を該回転方向に対して傾斜させる」(構成要件1E)キヤノン又は関連会社が製造するトナーカートリッジに被告製品がどのように設置されるのかについて被告らの関与はなく、取付位置・取付方法は、キヤノンの判断によるものであるところ、キヤノンが被告製品を角度θ<角度φで取り付けていると認めるに足りる証拠はなく、これと異なる方法・用法で取り付けることが、経済的、商業的又は実用的なものでないことの立証もない。したがって、被告製品が本件特許を侵害する物の生産にのみ用いられている物(特許法101条1項1号)であることを認めるに足りる立証はないというべきであるから、原告の間接侵害の主張を採用することはできない。

(判旨抜粋)本件明細書においては、…「図4および図5では、パイル糸4として、地経糸21および地緯糸22よりも太い径の糸を使用する例を…それぞれ模式的に示す。」など、原糸状態の糸の「径」やその大小関係について述べる記載部分(段落【0043】【0033】【0050】【0052】)も存するのであり、後で述べるとおり、「径」とは一般的に繊維の「太さ」を指すものとして用いられている方法により示される「太さ」と同義であると解するのが相当であり、原糸状態の糸は、各糸の「径」がそれぞれ一様であることから、各糸の「径」の意味を一義的に把握することができ、これに基づき各糸の「径」の「大小」を比較することもできるものと解される。そうすると、本件訂正発明1の構成要件1Cの「径」及びその「大小」は、原糸状態の糸の「径」及びその「大小」を意味するものと解するのが相当である。エそして、前記⑶の技術常識によれば、繊維の重要な性質である「太さ」については、デニール(denier)のように一定の長さ当たりの重量で繊維の太さを示す方法が一般的に用いられている。繊維の素材が異なり比重(密度)が異なる場合には、デニール数では直ちには太さの比較をすることはできないが、繊維の比重とデニール数から断面積を容易に計算し、比較することができることは、技術常識であると認められる。そうすると、本件訂正発明1の構成要件1Cにおける地糸の経糸・緯糸とパイル糸の各「径」とは、原糸状態において、一般的に用いられている方法で示される各糸の「太さ」を意味し、その「大小」についても、当該方法を前提に、原糸状態の糸の繊維の断面積を算出して「径」の大小関係を決することをいうものと解するのが、出願当時の当業者の技術常識を踏まえた構成要件の合理的な解釈であるというべきである(以上によれば、構成要件1Cが不明確ということもできない。)。

原判決記載のとおり、キヤノン又は関連会社が製造するトナーカートリッジに被告製品がどのように設置されるのかについて被告らの関与はなく、取付位置・取付方法は、キヤノンの判断によるものであるところ、キヤノンが被告製品を角度θ<角度φで取り付けていると認めるに足りる証拠はなく、これと異なる方法・用法で取り付けることが、経済的、商業的又は実用的なものでないことの立証もない。したがって、被告製品が本件特許を侵害する物の生産にのみ用いられている物(特許法101条1項1号)であることを認めるに足りる立証はないというべきであるから、原告の間接侵害の主張を採用することはできない。

令和7年(ネ)10005【親綱支柱用治具】<増田裁判長>

令和7年(ネ)10005【親綱支柱用治具】<増田裁判長>

被告製品の側板に形成されたフックは、底板をU字状に折り曲げて形成されたものではないから、被告製品は構成要件Cの「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部」を含まない。⇒文言非充足

本質的部分の相違⇒均等侵害も不成立

⇒虚偽事実の告知・流布を認めた原審を維持した。

東京地判令和6年(ワ)70128【箱型船】<中島裁判長>

東京地判令和6年(ワ)70128【箱型船】<中島裁判長>

*耐用期間1年のpHセンサの交換行為は新たな製品の製造に当たらない。⇒非侵害

(判旨抜粋)被告製品の箱型船自体については、特段の耐用期間が定められているものではなく、本件メンテナンス行為の対象となる部品のうちpHセンサに限り、耐用期間が1年とされているため、毎年の本件メンテナンス行為により新品に交換されている・・・。・・・本件メンテナンス行為は、箱型船全体のうち、耐用期間が1年とされているpHセンサに限り交換するものであるから、単に通常の用法に従って、箱型船の消耗品といえるpHセンサを交換するにとどまるものといえる。しかも、pHセンサの技術的機能をみると、pHセンサの検出値に基づいて酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置を備える箱型船は、乙4公報に開示されているところであり、pHセンサが本件発明の本質的部分に係る構成であるとはいえない。のみならず、pHセンサの経済的価値についても、・・・本件発明の技術的範囲に属する箱型船全体の価値に比べて、極めて僅かなものといえる。これらの事情の下においては、本件メンテナンス行為は、本件発明の本質的部分に係る構成を欠くに至った状態のものについて、これを再び充足させるものとはいえない。したがって、本件メンテナンス行為は、被告製品の箱型船と同一性を欠く箱型船の新たな製造をしたものとはいえず、特許法2条3項1号に規定する「生産」に該当するものと解することはできない。これに対し、原告は、本件メンテナンス行為につき、本件発明の技術的範囲に属さない製品(pHセンサがなく構成要件Fを欠くもの)を、本件発明の技術的範囲に属する製品に変更するものであるから、同号に規定する「生産」に該当すると主張する。しかしながら、「生産」に当たるか否かは、本件発明の本質的部分に係る構成を欠くに至った状態のものを再び充足させるものといえるかどうかという観点から上記にいう諸事情を検討すべきことは、上記において説示したとおりである。そうすると、pHセンサがない状態からこれを新たに取り付けた行為のみを切り出して判断するのは相当ではなく、この理は、原告主張に係るチューブについても、同様である。上記観点から検討すれば、原告主張に係るpHセンサの交換や、劣化や破損によるチューブの交換は、修理やメンテナンスそのものというべき行為であり、同一性を欠く箱型船を新たに製造するものとはいえず、本件メンテナンス行為は、本件発明の「生産」に該当するものと解することはできない。そもそも、原告主張に係る箱型船は本件特許登録前に既に製造されたとみるべきものであるから、原告が当該箱型船に関する利益を得られなかったとしても、本件特許登録前のものである以上、原告主張に係る不合理があるものとはいえない。

令和7年(ネ)10004【ワイヤレススカッフプレート】<中平裁判長>

令和7年(ネ)10004【ワイヤレススカッフプレート】<中平裁判長>=原審・東京地判令和5年(ワ)70346<中島裁判長>

*「調整可能」とは、能動的に可変とすることを意味する。⇒非充足

構成要件Fの「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」は、感応信号に従ってバックライトモジュールをオンとオフの状態にすることができるとともに、感応信号に従ってオン状態にした後、再度の感応信号がなくても一定時間後にオフ状態にするまでの間隔、すなわち発光持続時間、を可変とすることができる制御モジュールを意味するものと解される。⇒被控訴人各製品が、開閉に係る磁気を感知するタイミングとは関係なく、発光持続時間を可変に調整し制御する制御モジュールを備えるものとは認められない。

東京地判令和6年(ワ)70463【水栓エルボ連結固定具】<杉浦裁判長>

東京地判令和6年(ワ)70463【水栓エルボ連結固定具】<杉浦裁判長>

本件特許出願は拒絶査定を受け、その後、本件出願発明につき何らかの権利が設定されたことをうかがわせる具体的な事情もない。本件契約の対象に本件出願発明が含まれるとみることもできない。また、本件特許出願又は本件出願発明の実施に対する被告の何らかの関与をうかがわせる具体的な事情は見当たらないことから、その出願過程及び発明の実施に関して、被告の原告に対する何らかの不法行為があったとみることもできない。…

【意匠】大阪地判令和5年(ワ)2668『土留め植生土嚢』事件<松阿彌裁判長>

【意匠】大阪地判令和5年(ワ)2668『土留め植生土嚢』事件<松阿彌裁判長>

本件意匠1の「草」の形状について、自然物であっても意匠としての定型性・再現可能性がある範囲で特定すべきである。⇒被告土嚢の外観(特に草の生え方)が本件意匠1と大きく異なるから、非類似。

※特許権侵害(均等侵害)についても、植生シートを袋本体の「開口縁部においてのみ」脱落可能に固定する構成は、植生シートの変形防止等の作用効果を奏するための特有の技術的思想を構成する特徴的部分であり、発明の本質的部分に当たる。⇒均等不成立

東京地判令和6年(ワ)70223【ゲームシステム及びゲームプログラム】<中島裁判長>

東京地判令和6年(ワ)70223【ゲームシステム及びゲームプログラム】<中島裁判長>

<非充足(①ゲームシステム)>本件特許1では、購入アイテム(第1)とゲーム内獲得アイテム(第2)の数量を夫々記憶し、第1アイテムを優先消費させる構成が必要である。しかし、被告システム(LINE:ディズニーツムツム)では、購入時の無料分とゲーム内獲得分が区別されず合算して管理されており、第2アイテム単独の数量を記憶していない。また、両者を区別していないため、第1アイテムを優先消費させる機能も有していない。よって、構成要件1Bおよび1Cを満たさない。

<非充足(②ゲームプログラム)>本件特許2は、同一アイテムの「累計獲得数」に応じてデータを変更する発明である。しかし、被告プログラムにおける該当数値(スキルレベルの上昇に関わる数値)には、アイテム獲得そのものの数だけでなく、「スキルチケットの使用回数」という別の要素が含まれている。これは特許で規定する純粋な「累計獲得数」とは異なる。

大阪地判令和5年(ワ)7855【物理ハイブリッド自動再送要求指示チャネルのマッピング方法】<松阿彌裁判長>

大阪地判令和5年(ワ)7855【物理ハイブリッド自動再送要求指示チャネルのマッピング方法】<松阿彌裁判長>

*標準必須特許(SEP)~権利濫用に当たる⇒差止請求~請求棄却

1.被告の交渉態度原告は2020年6月12日にライセンス交渉を申し入れ、G社(GOOGLE)は同年7月7日にFRAND条件でのライセンス意思を表明した。NDA交渉に合計5か月、22件のクレームチャート検討に約8か月を要したが、NDAは営業秘密の開示に伴うものであり、多数の特許の検討期間としてもやむを得ないものであった。G社は、原告の提案に対し、対案(G社第1案)やその後の修正案を提示するなどしており、2023年11月末時点において、交渉に誠実性を欠く点は認められない。

2 原告及びG社の提案原告第1案(0.75%)について、G社はその根拠情報の古さ等に疑問を持ったが、原告はこれに十分に応答しなかった。G社の対案は、累積ロイヤリティの上限(27%)を設定するなどのトップダウン方式等を参照しており、FRAND条件の検討において排除されない手法である。スマートフォンの価格が通信以外の性能に大きく依存することを重視したG社の判断は、あながち責められるものではない。

⇒G社は基準時である令和5年11月末時点においても、ライセンス契約締結に向けて真摯に交渉を継続していたと認定し、不誠実なホールドアウトとは評価し得ないと判断した。

令和7年(ネ)10035【車両誘導システム】<本多裁判長> (PXZ v. 東日本高速道路株式会社)

令和7年(ネ)10035【車両誘導システム】<本多裁判長>(PXZ v. 東日本高速道路株式会社)

*令和6(行ケ)10086が祖父出願の分割要件違反を指摘したと同じ内容で、非充足とした。

『構成要件2Eの「一般車用出入口」に、本件発明2に係る車両誘導システムが設置されている有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに隣接する別のインターチェンジの一般車用出入口が含まない』⇒非充足

「誘導」とは客観的に導くことであり、標識等がない以上、運転者の任意のUターンは設備の機能による誘導とは評価できない。⇒『ETCによる料金徴収が不可能な車両を「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート」に誘導する誘導手段を備えていない』⇒非充足

令和7年(ネ)10025【スピンドルモータ】<中平裁判長> ⇒職務発明対価請求

令和7年(ネ)10025【スピンドルモータ】<中平裁判長>⇒職務発明対価請求 棄却(共同発明者性 否定)

本件日本発明の核心は特定の「連通孔」の形成にあるが、控訴人が提出した説明書にはその具体的構成への言及がなく、全く異なる課題と解決手段を説明しているため、控訴人のアイデアは本件日本発明の特徴を示していない。(控訴人が勤務先に提出した「発明・考案説明書」は、別の課題・解決手段を述べるにとどまり、連通孔の具体的構成には触れていない。)

米国および中国の特許発明は、スリーブに貫通穴を設ける「A発明」に基づいている。これは、スリーブとハウジングの間に溝を設けるという控訴人の着想とは構成が明確に異なるため、控訴人の発明とは別物である。

大阪地判令和6年(ワ)7193号【物品搬送設備】<松阿彌裁判長> ⇒職務発明対価請求棄却

大阪地判令和6年(ワ)7193号【物品搬送設備】<松阿彌裁判長>

⇒職務発明対価請求棄却

①規定の策定及び運用プロセス被告は平成28年の特許法改正及びガイドライン公表を受け、労働組合と協議を行い、報奨金制度や算定方法を説明していた。また、規定改定時には全従業員から意見を募集し、原告の意見にも回答するなど、慎重かつ真摯な手続を経ており、これらは合理的である。

②規定の周知性規定は社内システムで常時閲覧可能であり、新人研修でも説明されていた。原告は在職中に報奨金を受領しており、制度を理解し得る立場にあった。

③規定の内容実績報奨金は事業部及び知的財産部が客観的指標に基づいて評価し等級を決定する仕組みであり、発明者が意見を述べる機会も確保されているため、不合理ではない。(判旨抜粋)『特許法35条5項において定める不合理性の判断の観点に、それ自体私的自治に委ねられるとも考えられる対価の額の妥当性が当然に含まれるかは疑問であるし、仮に考慮要素の一要素となり得るとしても、例えば出願報奨、登録報奨の低廉な一時金のみを支払い、その後特許権の実施によって会社が得た利益を分配しないような規定であれば格別、本件細則は、実施に係る特許権等の経済的価値を、利益貢献や競合の排除といった様々な観点から評価して段階的に相応の実績報奨金を支払うものであって、不合理とする点は見出しがたい。』

結論として、本件規定は不合理ではないため、規定の適用がないことを前提とする特許法35条7項に基づく法定の相当利益の請求は理由がない。

 
 
 

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