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法情報提供(2026年2月掲載分)

17 時間前
読了時間: 67分

対象:2026年2月に弁護士・高石秀樹(中村合同特許法律事務所)が公開した記事

収録件数:34件

<今月の見どころ>2026年2月 知財・法務アップデートの重要ポイント

今月のリーガルアップデートでは、クレーム解釈、進歩性、発明者性・職務発明、医薬品・標準必須特許、鑑定証拠・法定手続・著作権の例外規定まで、知財実務の広い領域にわたる34件の裁判例・解説を取り上げる。特に注目すべき判断と実務上のポイントは、以下のとおりである。

1.クレーム文言と明細書から定まる権利範囲

東京地判令和5年(ワ)70380【棒状ライト】<髙橋裁判長>は、推薦色の記憶と発光に異なる入力を使う製品等を非充足とし、同じ入力方法による課題解決の記載・示唆もないとしてサポート要件違反を認めた。令和6年(ネ)10074【電子タバコ用充填物】<増田裁判長>は、「切込み」を刃物で人為的・能動的に形成された切り目と解し、捲縮加工による筋状部分を非充足とした。他方、東京地判令和5年(ワ)70594【マットレス】<勝又裁判長>は、「圧着」を強い圧迫に限定せず、隙間が生じない程度に圧力がかかる状態と解して充足を認めた。令和6年(ネ)10080【笠木下換気構造体】<中平裁判長>は、換気部材「それ自体」が通気・防水性能を有することを要するとした。明細書の課題・解決手段・効果と形成手段を踏まえる必要がある。

2.進歩性を分ける技術常識、予測可能性、動機付け及び阻害要因

令和7年(行ケ)10037【木質複合材】<清水響裁判長>は、密度・寸法・ランダム配向に特段の相乗効果が示されないとして個別判断を是認し、周知技術等に基づく最適化・選択とした。令和6年(ネ)10032【携帯情報通信装置】<清水裁判長>及び令和6年(ネ)10001【ヤーン色配置システム】<清水響裁判長>も、画像処理の技術常識や必然的な調整を重視した。これに対し、令和6年(行ケ)10022【…抗微生物剤】<本多裁判長>は、有効成分が爪甲を透過して治療効果を発揮する合理的な期待がなかったとして進歩性を肯定した。令和6年(行ケ)10043【弾塑性履歴型ダンパ】<本多裁判長>は、一方向入力を前提とする引用発明への二次元配置に動機付けがなく阻害要因があるとし、知財高判令和6年(ネ)10048【電池】<中平裁判長>は、先行技術の部材位置と効果との密接な関連を重視した。技術常識、予測可能性、動機付け及び阻害要因を分けて論証すべきである。

3.発明者性・職務発明は特徴的部分への関与と規程の適用で決まる

令和5年(行ケ)10078【オーディオコントローラ】<清水裁判長>は、委託者が具体的解決手段を伴う着想を完成させ、受託者は別課題を解決したにすぎないとして共同発明者性を否定した。令和7年(ネ)10029『特許を受ける権利の確認請求』<増田裁判長>は、血管プラグの課題と解決手段を研究ノートに記した教授を発明者とし、【職務発明】東京地判令和5年(ワ)70495<中島裁判長>も、完成時期と関与を裏付ける証拠がないとして原告の発明者性を否定した。大阪地判令和5年(ワ)10217【立体網状繊維集合体】<松阿彌裁判長>は、褒賞規定の制定手続と製品の実績を踏まえて請求を棄却した一方、大阪地判令和4年(ワ)11405【複素環誘導体】<武宮裁判長>は、規程適用の定め・合意がないとして法定の相当対価約9400万円を認めた。特徴的部分への関与を資料化し、規程の対象と手続を明確にすべきである。

4.医薬品特許と標準必須特許の権利範囲・救済

令和5年(ネ)10107『PCSK9(二次訴訟)』<中平裁判長>は、「競合」に立体障害による競合も含まれる一方、異なる部位に結合する抗体の中和作用に十分な裏付けがなく、Fab断片への訂正後も当該態様が残るとしてサポート要件違反とした。東京地判令和5年(ワ)70527【環状タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤】<杉浦裁判長>は、水和物・無水物と添加剤の差異が安定性・溶出性の課題に対処する製剤設計によるとして、原告製品をスプリセル錠と実質同一ではないとした。同裁判長による仮処分と本訴で判断が変わった点も注目される。東京地判令和4年(ワ)7976号【通信機器】<中島裁判長>は、LTE標準必須特許の侵害を認めながら差止請求を権利濫用とし、FRAND条件で実施料を按分して侵害プレミアムを認めなかった。

5.鑑定証拠、法定手続及び著作権の例外規定

【種苗法★】育成者権侵害事件は、原告が用意した試験管への菌糸の事前混入可能性と親株廃棄による事後検証不能を理由に、鑑定の信用性を否定した。第三者機関による実施と試料保存が不可欠である。東京地決令和6年(行ウ)5001<澁谷裁判長>は、外国語特許出願で翻訳文提出前にした審査請求の瑕疵は後に治癒せず、処分を取り消す実益もないとした。令和6年(ネ)10072【ドラフト差測定装置】<中平裁判長>は、特許異議申立ての違法性を否定し、その他の出願・維持費用も行為との相当因果関係を欠くとした。知財高判令和7年7月31日(令和6年(ネ)第10075号)【著作権法★】事件は、投稿本文の批評目的との関連性が認められた報道写真には引用を、隣接紙面に軽微に写り込んだ写真には付随対象著作物の利用を認めた。証拠の採取・保存、法定手続の順序、損害との因果関係及び引用の各要件を点検すべきである。

このほか、契約上の「客観的に支払不能」の認定、別製品の販売申出による共同不法行為、数値限定の技術的意義及び再審事由など、訴訟・出願・契約・社内制度を横断する判断を収録した。本号を争点整理と証拠設計の点検に活用されたい。

全記事の3行要約

区分

記事名・3行要約

特許

令和7年(行ケ)10037【木質複合材】<清水響裁判長>① 木質複合材について、密度、小薄片の寸法及び繊維方向のランダム配向を相乗効果のある一体の相違点として判断すべきか、それぞれ個別に容易想到性を判断すべきかが争われた事案である。② 裁判所は、各要素の個別効果は認められるものの組合せによる特段の相乗効果は認められないとして個別判断を是認し、密度、寸法及びランダム配向はいずれも周知技術等に基づき容易に選択又は最適化できるとして進歩性を否定した。③ 明細書又は実験データに組合せによる特段の相乗効果が示されなければ、複数の相違点が個別に判断され得ることが示されている。

特許

令和6年(ネ)10032【携帯情報通信装置】<清水裁判長>① 携帯情報通信装置の進歩性に関し、無線信号の復調及び画像表示、外部モニターとの解像度の違い、画像メモリ並びに画像の切出しや縮小等が出願時の技術常識又は周知技術であったかが問題となった事案である。② 裁判所は、これらはいずれも出願日当時の技術常識又は周知技術であり、公知文献に明示されていなくても当業者が当然に理解するとして進歩性を否定し、請求を棄却した原審を維持した。③ 公知文献に明示がなくても、出願時の技術常識により当業者が当然に理解する構成は、進歩性判断において考慮され得ることが示されている。

特許

令和6年(ネ)10001【ヤーン色配置システム】<清水響裁判長>① ハイロー制御で隠れる糸を考慮し、実際の打込み密度を所望の外観密度より高く設定して裏打ち材料の送り速度を制御する構成の進歩性が争われた事案である。② 裁判所は、先行技術に糸の供給及び基材の送りを制御するシステムが存在し、隠れる糸の分だけ打込み密度を高めることは自明であって、送り速度の調整も当業者が当然に行う設計事項にすぎないとして請求を棄却した。③ 従来技術を実施する上で必然的に行われる調整を別の概念名で表現しても、進歩性を基礎付けない場合があることが示されている。

特許

東京地判令和5年(ワ)70079【車両誘導システム】<國分裁判長>① SICにおけるバーの開閉及び表示器による車両誘導が、「ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステム」等の構成要件を充足するかが争われた事案である。② 裁判所は、ETC車専用出入口を利用しようとする車両を発進制御機及び路側表示器によって所定のレーンに誘導しているとして、構成要件A及びFを含む各構成要件の充足並びに特許権侵害を認めた。③ 発進制御機及び路側表示器が車両を所定のレーンへ誘導する具体的な作用が、車両誘導システムの充足性判断に用いられている。

特許

東京地判令和5年(ワ)70380【棒状ライト】<髙橋裁判長>① 棒状ライトの推薦色の記憶及び発光に用いるボタン入力が、クレーム所定の同一の入力方法又は「第1所定入力」の検出に当たるかと、当該構成が明細書によりサポートされているかが争われた事案である。② 裁判所は、被告製品1及び2は記憶と呼出しに異なる入力方法を用い、被告製品3及び4は第1所定入力の検出のみで発光するものではないとして非充足とし、同じ入力方法による課題解決は明細書に記載も示唆もないとしてサポート要件違反も認めた。③ 記憶と発光に用いる入力方法の同一性及び所定入力の検出だけで発光するかが充足性を左右し、同じ入力方法を含むクレームにはそれに対応する明細書の記載又は示唆が必要となることが示されている。

知財一般

10立方センチメートルの液体及び/又は固体を運搬可能な容器① 「A及び/又はB」を「B」にする訂正が拡張又は変更となり得るかを、「10立方センチメートルの液体及び/又は固体を運搬可能な容器」を例として検討対象とする記事である。② 記事は、選択肢を削る訂正の例を提示するとともに、逆のパターンとして「電気的に」との文言追加が拡張又は変更となる場合にも触れているが、結論自体は示していない。③ 訂正に際しては、選択肢の削除と文言の追加の双方について、拡張又は変更となる可能性を検討すべき問題が示されている。

特許

令和6年(行ケ)10043【弾塑性履歴型ダンパ】<本多裁判長>① 弾塑性履歴型ダンパについて、建築用ダンパと橋梁用ダンパ等の組合せによる進歩性欠如及び「あらゆる方向からの荷重」に対応できる裏付けを欠くとのサポート要件違反が争われた事案である。② 裁判所は、一方向入力を前提とする甲1発明に二次元的な配置を適用する動機付けはなく阻害要因があり、他の引用例も互いの向きを異ならせた一対の剪断部を示唆しないとした上、本件発明は全方向からの荷重に対して最大限のエネルギー吸収を行うことまで求めるものではないとしてサポート要件違反も否定した。③ 引用発明が前提とする荷重の方向は組合せの動機付け又は阻害要因の判断に影響し、サポート要件はクレームが実際に求める課題解決の範囲を踏まえて判断されることが示されている。

特許

知財高判令和6年(ネ)10048【電池】<中平裁判長>① 電池に関する特許権侵害訴訟において、発電要素が積層型を含むか、部材を介した接合がクレームに含まれるか及び先行技術から構成要件A4に容易に想到できるかが争われた事案である。② 裁判所は、発電要素は巻回型に限定されず積層型も含み、部材を介した接合も排除されないとして充足を認める一方、乙12発明のフランジ位置はその効果と密接に関連し、他の引用例からも構成要件A4に到達せず動機付けがないとして進歩性を認め、差止め及び約12億7000万円を認めた一審判決を維持した。③ クレーム解釈では明細書から構成上の限定の有無を確認し、容易想到性判断では先行技術における部材の配置と発明の効果との密接な関連を検討する必要があることが示されている。

知財一般

【種苗法★】育成者権侵害を立証する鑑定の信用性が認められないとして、原告の請求を棄却した事例① しいたけの育成者権侵害訴訟において、原告が自ら用意した試験管を用いて行われ、親株も廃棄された植継行為及びこれを前提とする鑑定の信用性が争われた事案である。② 裁判所は、試験管に原告品種の菌糸が事前に混入された可能性を十分に否定できず、親株の廃棄により事後的検証も不可能となったとして鑑定の信用性を否定し、その余の点を判断するまでもなく原告の請求を棄却した。③ 育成者権侵害の鑑定では、公平中立な第三者機関に試験管の用意を依頼し、鑑定後も親株を廃棄せず保管して、鑑定の公平性、透明性及び事後検証可能性を確保することが重要である。

特許

令和6年(ネ)10056【洗浄作業用バン型自動車】<中平裁判長>① 侵害者製品とは異なる製品について販売の申出をした行為が、侵害者製品の販売を援助又は容易にしたものとして共同不法行為を構成するかが争われた事案である。② 裁判所は、被控訴人が被控訴人製品1とは異なる名称の被控訴人製品2について販売の申出をしても、それによりKCSによる被控訴人製品1の販売を援助又は容易にしたとは認められないとして、共同不法行為を否定した。③ 侵害者製品とは別の製品について販売の申出をしただけでは、侵害者製品の販売を援助又は容易にしたことが認められない限り、共同不法行為は成立しないことが示されている。

知財一般

【新着YouTube】充足論(典型的な文言充足以外)(特許裁判例事典、第4版の読み合わせ)2025/11/5① 典型的な文言充足以外の充足論として、均等論、数値限定及び用途発明等に関する主要判例を対象とする動画の紹介記事である。② 「特許裁判例事典、第4版」の読み合わせを通じ、充足論を巡る主要判例を一つの動画でまとめて把握できる内容である。③ 典型的な文言充足以外の充足論に関する主要判例を、一つの動画で横断的に確認できる。

知財一般

【契約】東京地判令和4年(ワ)9422<澁谷裁判長>① 本件契約17条2項所定の「客観的に支払不能の状態」に被告が該当するかと、同条項に基づく契約解除の有効性が争われた事案である。② 裁判所は、証拠により被告が遅くとも令和7年2月7日時点で客観的に支払不能の状態にあったと認定し、契約解除を有効とした。③ 支払不能を解除事由とする契約条項の適用では、被告が客観的に支払不能となった時点を証拠により認定できるかが重要となることが示されている。

特許

東京地判令和5年(ワ)70449【締結金物】<髙橋裁判長>① 締結金物の「過大な荷重が作用した際に変形を誘発させるため」との文言が発明の構成を限定するか、意匠公報記載の金具に対して新規性を有するかが争点となった事案である。② 裁判所は、同文言は前面部と後縁部を複数の枝状部で一体化する構成の目的又は必然的な作用・効果を示すにすぎず、甲5発明も同一形状により同効果を必然的に得るとして、新規性を否定した。③ 目的又は作用・効果を示すクレーム文言で先行技術との差異を主張する際は、その文言が構成を限定するか、同一構成から当該効果が必然的に生じるかを検討する必要がある。

特許

大阪地判令和5年(ワ)10217【立体網状繊維集合体】<松阿彌裁判長>① 職務発明である立体網状繊維集合体について、社内褒賞規定による対価支払の不合理性及び実施褒賞金の支給要件該当性が争われた事案である。② 裁判所は、本件褒賞規定が制定・改訂の過程で一般的な勤務規則等を参照し、知的財産に知見を持つ者の意見を得て従業員等への案の開示・意見聴取等を経たため、同規定によって職務発明の対価を支払うことは不合理でないとし、被告製品がマットレスとして低位の評価を受け商品化が終了した等の状況の下で、実施褒賞金の支給要件に該当しないと被告が判断したことにも不合理な点はないとして、請求を棄却した。③ 職務発明の褒賞判断では、規定の制定・改訂手続に加え、対象製品の販売実績、評価及び事業への貢献を具体的に記録・立証することが重要である。

特許

【職務発明】東京地判令和5年(ワ)70495<中島裁判長>① 原告が本件発明の発明者又は共同発明者であるかについて、発明の完成時期及び原告の着想・具体化への関与が争われた事案である。② 裁判所は、原告が主張する発明完成時期を裏付ける的確な証拠がなく、繰り返し釈明を求めても原告の関与の実態が明らかにならず、本件発明は原告の関与なく着想及び具体化されたとして、原告の発明者性及び共同発明者性を否定した。③ 発明者性を主張するには、発明の完成時期と着想・具体化への現実の関与を具体的な資料によって裏付ける必要がある。

特許

大阪地判令和4年(ワ)11405【複素環誘導体】<武宮裁判長>① 複素環誘導体に係る職務発明について、社内職務発明規程の適用可否と平成16年改正前特許法に基づく相当対価額が争われた事案である。② 裁判所は、本件発明に職務発明規程を適用する定め又は合意がないとして法定の相当対価を算定し、自己実施分及び他者実施分について使用者貢献度99%、共同発明者持分3分の1等を考慮して約9400万円を認容した。③ 職務発明規程では適用対象を明確にし、規程が適用されない場合には、超過売上高、仮想実施料率、ライセンス収入、使用者貢献度、特許の貢献割合及び共同発明者持分を対価算定資料として検討する必要がある。

特許

令和5年(ネ)10107『PCSK9(二次訴訟)』<中平裁判長>① PCSK9とLDLRの結合を中和し、参照抗体と競合する機能によって定義された抗体発明について、訂正後のクレームがサポート要件を満たすかが争われた事案である。② 裁判所は、「競合」には直接競合と立体障害による競合が含まれるところ、明細書には異なる部位に結合して立体障害により競合する抗体の中和作用を裏付ける十分な開示がなく、Fab断片に限定する訂正後もそのような抗体が含まれる可能性が残るとして、サポート要件違反と判断した。③ 機能によって定義された抗体クレームでは、実施例と異なる作用機序を含むクレーム全体が明細書によって裏付けられているかを確認し、訂正により裏付けのない態様を実際に除外する必要がある。

特許

東京地判令和4年(ワ)7976号【通信機器】<中島裁判長>① LTE標準必須特許の侵害をめぐり、差止請求が権利濫用となるか、FRAND条件に基づく損害額及び侵害プレミアムをどのように扱うかが争われた事案である。② 裁判所は、特許侵害を認めつつ、合意に至らなかった原因は料率の隔たりであり被告にライセンスを受ける意思がないとはいえないとして差止請求を権利濫用とし、規格全体の実施料率を特許数で按分して損害額を算定するとともに、FRAND条件の性質上、侵害プレミアムによる増額を認めなかった。③ 標準必須特許の権利行使では、料率に関する見解の隔たりと実施者のライセンス取得意思を区別し、規格全体の実施料率、特許数及び各規格の相対的貢献を踏まえて損害額を検討する必要がある。

特許

令和6年(ネ)10074【電子タバコ用充填物】<増田裁判長>① 電子タバコ用充填物に係る構成要件Bの「切込み」の意義と、捲縮加工によって形成された被告製品の筋状部分がこれを充足するかが争われた事案である。② 裁判所は、辞書の記載及び明細書の形成手段の例示から、「切込み」は刃物を用いて人為的・能動的に形成された切り目又は切れ目を意味すると解し、被告製品の筋状部分は刃物によるものではないとして、非充足と判断した。③ 一般的な用語のクレーム解釈では、辞書の語義及び明細書に記載された形成手段が考慮され得るため、被告製品の具体的な製造工程を立証することが重要である。

特許

令和6年(行ケ)10109【介助機】<本多裁判長>① 原審決とその後の第4次再審審決との関係が、特許法171条2項が準用する民訴法338条1項10号の再審事由に当たるかが争われた事案である。② 裁判所は、再審請求の対象である原審決より後の第4次再審審決との抵触は原審決の再審事由にならず、仮に第4次再審審決を対象としても、原審決は拒絶査定不服審判請求を不成立とする審決、第4次再審審決は再審請求を不適法として却下する審決であって相互に抵触しないとして、請求を退けた。③ 審決に対する再審事由を主張する際は、再審の対象となる審決を特定した上で、各審決の時系列、主文及び法的性質から実際に抵触するかを検討する必要がある。

特許

東京地決令和6年(行ウ)5001<澁谷裁判長>① 外国語による国際特許出願について、翻訳文の提出前にされた出願審査請求を特許庁が不適法として却下した処分の取消しが求められた事案である。② 裁判所は、特許法184条の17は翻訳文提出後に出願審査請求をすることを手続要件とし、その先後関係の瑕疵は後の翻訳文提出でも治癒されず、処分を取り消しても特許庁が再度却下せざるを得ないため訴えの利益がないとして、訴えを却下した。③ 外国語特許出願では、翻訳文を提出した後に出願審査請求をしなければならず、手続の順序を誤った場合は事後の翻訳文提出によって治癒できないことに留意すべきである。

特許

令和6年(行ケ)10022【…抗微生物剤】<本多裁判長>① 足白癬又は外用皮膚真菌症を治療対象とする主引用発明から、KP-103を用いる爪白癬治療剤に係る訂正発明を容易に想到できたかが争われた事案である。② 裁判所は、爪甲には抗真菌剤が内部まで浸透・透過しにくい障害があり、当業者がKP-103の感染部位への送達及び治療効果を合理的に期待できず、その効果も予測困難であったとして、主引用発明に基づく容易想到性を否定した。③ 医薬用途発明の進歩性判断では、原因菌又はケラチンの共通性だけでなく、有効成分が対象組織を通過して感染部位に送達され、治療効果を発揮することを合理的に期待できたかを検討する必要がある。

特許

令和7年(ネ)10029『特許を受ける権利の確認請求』<増田裁判長>① 血管プラグ発明の特徴的部分の完成に現実に関与した発明者が誰であるか、及びPCT出願に係る外国の特許を受ける権利について確認を求める紛争が成熟しているかが争われた事案である。② 裁判所は、臨床上の知見を有しないY1ではなく、本件発明の課題及び解決手段を研究ノートに記載したA教授が特徴的部分の完成に現実に関与したと認定し、外国について新たな出願又は国内移行等も具体的な予定もない現時点では、外国の特許を受ける権利を確認する紛争の成熟性も認められないと判断した。③ 発明者性については発明の特徴的部分への現実の関与を具体的資料で立証し、外国の特許を受ける権利の確認を求める場合には、対象国及び新たな出願又は国内移行等の具体的予定を明らかにする必要がある。

特許

令和5年(行ケ)10078【オーディオコントローラ】<清水裁判長>(被告:ピクシーダスト)① 受託者Cらが本件発明の共同発明者に当たるか、これを前提として冒認又は共同出願違反が成立するかが問題となった事案である。② 裁判所は、委託者A及びBが具体的な解決手段を伴う着想に基づいて既に本件発明を完成させており、受託者Cらが実現した機能は本件発明とは別の課題を解決するものにすぎず特徴的部分への創作的関与とはいえないとして、冒認及び共同出願違反を認めなかった。③ 共同発明者性の判断では、実施段階での寄与一般ではなく、本件発明の技術的課題を解決する特徴的部分を具体化した者であるかを検討する必要があることを示す事例である。

特許

令和5年(ワ)70563【取引管理システム】<澁谷裁判長> (キーソフト v. サンカクキカク)① ふるさと納税に係る被告システムにおいて、地方団体が本件発明の「中間取引者」に該当するかが問題となった事案である。② 裁判所は、ふるさと納税及び返礼品の提供は売買取引ではなく、地方団体が寄附者から発注を受けて事業者へ発注する関係にもないため、地方団体は段階的な商品取引を行う「中間取引者」に該当しないと判断した。③ 取引システムに関する構成要件の充足性は、通知の形式だけでなく、取引の有償性及び発注情報が段階的に受領・伝達される実際の関係に即して検討する必要があることを示す事例である。

特許

東京地判令和5年(ワ)70594【マットレス】<勝又裁判長>① 複数のクッション体が「圧着」した状態でマットレスカバーに組み入れられているとの構成要件の解釈及び被告製品の充足性が問題となった事案である。② 裁判所は、「圧着」は強く圧迫してくっつく状態までは要さず、クッション体同士に隙間が生じない程度に何らかの圧力がかかる状態を意味すると解し、被告製品の中材間には0.2MPa以上の圧力が認められるとして充足性を肯定した。③ クレーム用語の解釈では、辞書的意味だけでなく、明細書の実施態様、図面及び発明の目的・効果を総合し、被告製品については構成要件に対応する物理的状態を測定により立証することが重要であることを示す事例である。

特許

令和5年(ネ)10114【キューブコーナー素子を有する層状体および再帰反射シート】<中平裁判長>① キューブコーナー素子の二面角誤差を1分~60分とした数値限定に技術的意義があり、進歩性を基礎付けるかが問題となった事案である。② 裁判所は、明細書に当該数値範囲を好ましいとする根拠がなく、1分未満でも作用効果を奏する実施例があり、上限を60分とする根拠や範囲内に特有の作用効果も示されていないため、数値範囲に特段の技術的意義はなく通常の創作能力の発揮にすぎないと判断した。③ 数値限定によって進歩性を基礎付けるには、数値範囲及び上下限の根拠並びに当該範囲に特有の作用効果を明細書上で裏付けることが重要であることを示す事例である。

特許

令和5年(行ケ)10121【撮像装置】<増田裁判長>① 請求項の「直交する」との記載及び図4Bにおける軸Aの描写との関係で、サポート要件を満たすかが問題となった事案である。② 裁判所は、「直交する」との記載は第1軸と第2軸の交差角度ではなくディスプレイの長方形の二辺が直角に交わる位置関係を示し、図4Bで軸Aが動くように描かれた点は当業者が正しい構成を容易に理解できる明らかな誤記であるとして、サポート要件を肯定した。③ 図面に誤記があっても、請求項及び明細書全体から当業者が誤記と正しい構成を容易に理解できる場合には、直ちにサポート要件違反となるものではないことを示す事例である。

特許

令和5年(ワ)70004【携帯情報通信装置】<髙橋裁判長>① 携帯情報通信装置について、乙6発明に技術常識を適用して相違点①に係る構成を容易に想到できたかが問題となった事案である。② 裁判所は、優先日当時の当業者であれば、乙6発明に技術常識を適用し、外部から画像情報を取り込むため、通信部が無線信号を受信してデジタル信号に変換しCPUへ送信する構成を容易に想到できたとして、進歩性を否定した。③ 先行発明との相違点が、優先日当時の技術常識を適用することにより具体的に導かれるかが、進歩性判断の重要な検討事項となることを示す事例である。

特許

東京地決令和5年(ヨ)第30214号仮処分命令申立事件<杉浦裁判長>① 本記事本文には仮処分命令申立事件の具体的な事案及び争点の記載はなく、同じ杉浦裁判長による本訴判決への参照が示されている。② 本記事は、本訴では特許権者が逆転敗訴したと記載するが、仮処分決定の具体的な結論及び理由は記載していない。③ 同一裁判長による仮処分と本訴で判断が変わった点を、本記事からリンクされた本訴判決の記事と併せて確認する必要があることを示す記事である。

特許

東京地判令和5年(ワ)70527【環状タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤】<杉浦裁判長>① 延長された医薬品特許権の効力が、有効成分の水和物・無水物及び添加剤の構成が異なる原告製品に「医薬品として実質同一なもの」として及ぶかが問題となった事案である。② 裁判所は、無水物の安定性及び溶出性の課題に対処するための添加剤の変更は、周知・慣用技術の単なる適用ではなく、生物学的同等性を確保するための積極的な製剤設計であるとして、原告製品は先発医薬品と実質同一ではなく、延長特許権の効力は及ばないと判断した。③ 控訴審では、添加剤の差異に係る課題及び技術的意義を問題とする本判決の論理が維持されるか、それとも有効成分が異なる場合に射程が限定されるかが実務上の注目点である。

特許

令和6年(ネ)10080【笠木下換気構造体】<中平裁判長> =原審・大阪地判令和5年(ワ)8403① 被控訴人製品の板状部分が「通気性能及び防水性能を発揮する換気部材」に当たり、構成要件Cを充足するかが問題となった事案である。② 裁判所は、クレーム文言及び明細書に照らして換気部材それ自体が通気性能及び防水性能を有する必要があると解し、被控訴人製品の板状部分はこの要件を満たさず、傾斜部⑤も通気性能を低下させるため同性能に寄与しないとして、構成要件Cの充足性を否定した。③ 性能を規定する構成要件は、クレーム文言及び明細書に即して当該部材自体が性能を有することを要するかを検討すべきであり、合理的根拠なく単なる性能への「寄与」を基準とすることはできないことを示す事例である。

特許

令和6年(ネ)10072【ドラフト差測定装置】<中平裁判長>① 特許異議申立手続への対応費用及びそれ以外の特許出願・維持費用について、一審被告の不法行為に基づく損害として賠償を求められるかが問題となった事案である。② 裁判所は、特許異議の申立ては違法ではないため不法行為が成立せず、それ以外の費用も一審原告が自らの判断で支出したもので一審被告の行為との相当因果関係がないと判断した。③ 特許異議への対応費用又は特許の出願・維持費用を損害として請求するには、相手方行為の違法性及び当該行為と支出との相当因果関係を具体的に立証する必要があることを示す事例である。

著作権

【著作権法★】被控訴人(被告)が、控訴人(原告)の発行する新聞の記事(見出し、記事本文、本件各写真)をスマートフォンの写真1枚に写り込む限度で撮影し、25回にわたり、インターネットを利用して、投稿本文とともにツイッター(X)に投稿した行為について、控訴人が本件各写真の著作権(送信可能化権)侵害を主張して、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案において、引用の抗弁(著作権法32条1項)又は付随対象著作物の利用の抗弁(著作権法30条の2)を認めて、控訴人の請求を棄却すべきものとした事例① 被告が聖教新聞の記事及び写真をスマートフォンで撮影し、投稿本文とともにツイッター(X)へ25回投稿した行為について、写真の送信可能化権侵害に対する引用又は付随対象著作物の利用の抗弁が成立するかが問題となった事案である。② 知財高裁は、投稿本文の批評目的との関連性が認められた写真については投稿本文との明瞭区別性、主従関係、出所の認識可能性、引用目的との関連性及び範囲・分量の相当性を認めて引用の抗弁を肯定し、隣接紙面に軽微に写り込んだ写真については付随対象著作物として正当な範囲内の利用と認め、控訴を棄却した。③ 報道写真を含む紙面を投稿する場合の引用について、明瞭区別性、主従関係、公正な慣行及び目的上正当な範囲を具体的に検討するとともに、批評対象ではない軽微な写り込みを付随対象著作物の利用として区別して判断した点が実務上参考になる。

令和7年(行ケ)10037【木質複合材】<清水響裁判長>

令和7年(行ケ)10037【木質複合材】<清水響裁判長>

進歩性×

原告は、密度・小薄片の寸法・配向(向き)の3つの要素が一体となって相乗効果を奏するため、これらを一つの相違点として判断すべきと主張したが、本判決は、明細書や実験データからは各要素が個別に効果(強度の向上、表面性の向上など)を奏することは読み取れるものの、組み合わせによる特段の相乗効果までは認められないとして、個別に判断した特許庁の手法を是認した。

(1) 相違点1:密度(400~550kg/m3)について甲1発明には密度の特定がないが、先行技術(乙2~4)において、木質ボードの密度として0.40~0.65g/cm3(400~650kg/m3)が好適であることは周知であった。⇒用途(床材の基材)に応じて密度の数値範囲を最適化・好適化することは当業者が容易になし得る。

(2) 相違点2:木質小薄片の寸法(厚さ0.2-0.5mm等)について本件発明は薄片のサイズを細かく規定しているが、先行技術(甲4、甲5など)には類似した寸法の開示があった。⇒薄片を小さくすると均質・平滑になるが強度は下がるという技術常識(トレードオフ)が存在し、その中で数値を最適化することは当業者の創作能力の範囲内であるとしました。「節がない」点も、細片化すれば当然の結果である。

(3) 相違点3:繊維方向のランダム配向について本件発明は薄片がランダムに向いている。⇒OSBにおいて配向性を持たせるかランダムにするかは周知の選択肢であり、ランダムにすることで方向による強度のバラつき(異方性)をなくすことは技術常識であるため、用途に応じてランダム配向を選択することは容易である。

  

令和6年(ネ)10032【携帯情報通信装置】<清水裁判長>

令和6年(ネ)10032【携帯情報通信装置】<清水裁判長>

進歩性×⇒請求棄却した原審維持

携帯電話が無線信号を受信し、復調してデジタル信号にし、CPUがそれを処理して画像を表示するのは、出願日当時の技術常識である。⇒公知文献に明示されていなくても、当業者は当然そう理解する。

丙B9文献でも、携帯画面では見きれないデータを外部モニターに出す以上、「解像度の違い」がある。

画像を扱う以上、VRAM(画像メモリ)やビットマップデータ(ドットデータ)を使うのは技術常識である。大きな画像を小さな画面で見るために一部を切り出したり縮小したり(あるいはスクロールしたり)する技術も、出願日当時の周知技術であった。

 

 

令和6年(ネ)10001【ヤーン色配置システム】<清水響裁判長>

令和6年(ネ)10001【ヤーン色配置システム】<清水響裁判長>

進歩性×⇒請求棄却

「ハイロー制御(High-Low Control)」= 模様を作る際、表面に出したい色の糸は高く残し、隠したい色の糸は低く引き戻す(あるいは引き抜く)従来技術。

本件発明= 隠れる糸がある分、実際に打ち込む数(効果的レート)を、完成品の外観上の密度(所望のレート)よりも「高密度」に設定し、それに合わせて裏打ち材料の送り速度を制御する。

⇒先行技術(乙4発明)において、糸の供給や基材(裏打ち材料)の送りを制御して所望のパターンを作るシステムは存在していた。「ハイロー制御」を使って一部の糸を隠す場合、当然ながら、隠れた分だけ隙間ができないよう、実際の打ち込み密度(ステッチレート)を高くしないと、所望の外観密度が得られないことは自明である。⇒ 「所望の外観密度」を得るために、隠れる糸の分を考慮して「実際の打ち込み密度」を高く設定し、基材の送り速度を調整することは、当業者が当然行う設計事項にすぎない。(原告が主張した「効果的ステッチレート」という概念は、新しい発明ではなく、従来の「ハイロー制御」を行う上で必然的に行われている調整を別の言葉で表現したに過ぎない。)

 

 

東京地判令和5年(ワ)70079【車両誘導システム】<國分裁判長>

東京地判令和5年(ワ)70079【車両誘導システム】<國分裁判長>

※特許権侵害を認めた。⇒控訴審判決で、逆転非充足

構成要件A(ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステム)の充足性に関し、要するに、SICにおいて、ETC車専用の出入口を利用しようとする車両に対し、バーの開閉や表示器を用いて、進入・退出ルート(レーンc)や退出・一般道ルート(レーンd)へ誘導している以上、本件発明の構成要件を満たすと認定した。また、構成要件F(誘導手段等)やその他の構成要件についても充足を認めた。

(判旨抜粋)被告各システムは、有料道路料金所、サービスエリア等に入るためにETC車専用入口を通過しようとする車両又は有料道路料金所、サービスエリア等から出るためにETC車専用出口を通過しようとする車両を、上記各発進制御機及び⑧路側表示器によって、レーンc又はレーンdのいずれかに誘導するものといえるから、「ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステム」に該当する。

 

 

東京地判令和5年(ワ)70380【棒状ライト】<髙橋裁判長>

東京地判令和5年(ワ)70380【棒状ライト】<髙橋裁判長>

非充足+サポート要件違反

被告製品1及び2は、「長押し」で記憶し、「短押し」で呼び出す構成であるため、同一の入力方法を要求する構成要件J4を非充足。被告製品3及び4は、推薦色の発光を第2ボタンの「前記第1所定入力」の「検出」のみによって行うものではないから、「前記第1所定入力を検出した場合、…発光させる」との構成を非充足。

『本件明細書の発明の詳細な説明には、推薦色の記憶と推薦色での発光について、第2ボタンの異なる入力方法による構成によって課題を解決することが記載されているといえるが、推薦色の記憶と推薦色での発光について同じ入力方法による構成によって課題を解決することについては、記載も示唆もない。』⇒サポート要件違反

 

 


 

 

10立方センチメートルの液体及び/又は固体を運搬可能な容器

訂正で、A及び/又はBを、Bにしたときに、拡張・変更になることはあるのだろうか?

 

例えば、

10立方センチメートルの液体及び/又は固体を運搬可能な容器 とか?

 

逆パターンは、

文言を追加して拡張・変更になるパターン

例えば、 『電気的に』接続された…

 

 

令和6年(行ケ)10043【弾塑性履歴型ダンパ】<本多裁判長>

令和6年(行ケ)10043【弾塑性履歴型ダンパ】<本多裁判長>

1.<甲1発明+甲2発明等>原告は、一方向の動きに対応する「甲1発明(建築用ダンパ)」に、二次元的な動きに対応する「甲2発明(橋梁用ダンパ)」の配置を適用することは容易であると主張した。しかし、甲1発明は、建築物の構面に沿った一方向からの荷重を前提としている。甲2発明は、橋梁の二次元的な動きに対応するために複数方向に配置されるものである。甲1発明に甲2発明の配置を適用する動機付けはなく、むしろ甲1発明の前提(一方向入力)からは、向きを異ならせて配置することに阻害要因がある。

2. <甲12発明+甲13発明>本件発明の「一対の剪断部」は「二つ」の剪断部を意味するが、甲12の波形鋼板は一つの連続した部材であり、構成が異なる。甲13は縦リブの代わりに「窪み」を設けたものであり、「窪み」を一つとすることは、一つが窪みで他が平板となる構成であって、本件発明の「互いの向きを異ならせた一対の剪断部」を示唆するものではない。

3. <サポート要件違反>原告は、本件発明が「あらゆる方向からの荷重」に対応できるかのようにクレームされているが、明細書には全ての方向に対応できる裏付けがないと主張した。⇒明細書の記載から、当業者は、従来の「一つの剪断部」しか持たないダンパの課題(一方向しか対応できない等)を、本件発明(二つの剪断部を向きを異ならせて配置)によって解決できると認識できる。本件発明は「全ての方向からの荷重に対して最大限のエネルギー吸収を行うこと」までを求めているわけではない。

(判旨抜粋)原告は、本件訂正発明1は、「入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う」とのみ特定され、どの方向からの荷重にも対応し得るかのように機能的に特定しているが、本件審決は、本件訂正発明1が全ての方向からのエネルギー吸収を行うことができるものではないことを認識していながらサポート要件に違反しないと判断しており、この点において本件審決には誤りがあると主張する。しかしながら、本件明細書の記載によっても、本件訂正発明1が全ての方向からの荷重に対して最大限のエネルギー吸収を行うことまで求めるものとは認められないから、原告の主張は前提において誤っており、理由がない。

 

 

知財高判令和6年(ネ)10048【電池】<中平裁判長>

知財高判令和6年(ネ)10048【電池】<中平裁判長>

差止め+12.7億円を認めた一審判決を維持した。

本件明細書の記載から、発電要素は、巻回型に限定されず積層型も含む。「活物質未塗工部の外側面」「表面が接合される」のクレーム文言も、クリップ等の部材を介した接合を排除しない。⇒充足

乙12のフランジ位置は、乙12発明の効果と不可分であり、具体的に開示された場所に限らないとは解されない。~組み合わせても、本件発明に至らない。乙22・乙23はいずれもヒューズやブレーカ構造の一部にすぎず、正負両極に端子接続部材を設ける構成A4に到達せず動機付けもない。⇒進歩性〇

(判旨抜粋)乙12公報の特許請求の範囲【請求項1】の記載及び乙12公報の発明の詳細な説明の記載によれば、乙12公報に記載された「フランジ部」が、蓋体の下面に設けられており、蓋体の下面にはフランジ部の係合部に係合する回転阻止部が設けられていることにより、端子極柱に外力が加わっても端子極柱が回転することがないという効果を奏するものであると認められる…。また、乙12公報の段落【0080】の記載によれば、同公報記載の発明の効果として、端子極柱に一体に形成された平面状フランジ部上面と蓋体下面の間に環状パッキングを介在させ、ポール部に環状押圧バネを係止させて端子極柱を蓋体に固定することによって、環状パッキングが上下方向に圧縮され、端子極柱を蓋板に対して確実に密閉しつつ固定できるとの効果もあると認められる。このように、乙12公報に記載の発明は、フランジ部が蓋体の下面に設けられていることが、発明の効果と密接に関連しているものであるから、…乙12公報はフランジ部が蓋体の下面に設けられている構成を開示していると認められ、乙12公報に本件発明1の構成要件A4の構成に相当する構成が記載されているに等しいとはいえず、フランジ部を容器の内容に設置するか外方に設置するかが設計事項であるともいえず、乙9発明に乙12構成を適用しても、本件発明1の構成には到達しない。

 

 

【種苗法★】育成者権侵害を立証する鑑定の信用性が認められないとして、原告の請求を棄却した事例

東京地判令和7年4月24日(令和4年(ワ)第2829号)(中島基至裁判長)

【事案の概要】原告は、しいたけ(登録番号第17039号)の育成者権を有し、被告らの菌床の輸入及び譲渡並びに、しいたけの生産及び譲渡行為が、原告の育成者権を侵害するとして、民法709条及び719条1項に基づき、連帯して、損害賠償金5548万5724円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

裁判所は、中核的争点を①原告自ら用意した試験管の培地上に菌糸を事前に混入させることができるかどうか、②原告が親株を廃棄した理由及びこれが適切であったかどうかに絞った。本判決は、原告が本件試験管に原告品種の菌糸を事前に混入していた可能性を十分に否定することはできず、これを前提とする本件鑑定の結果は、その信用性を欠くものと認めるのが相当であり、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないとして、原告の請求を棄却した。

 

【従前の裁判例を踏まえた前提となる説明-種苗法における育成者権侵害の立証】種苗法の品種登録制度により保護の対象とされる「品種」とは、特性の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合をいう(法2条2項)。これは、現実に存在する植物体の集合そのものを法による保護の対象とするものである。そして、育成者権の及ぶ範囲について,「品種登録を受けている品種(以下「登録品種」という。)及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種」を「業として利用する権利を専有する」と定める(法20条1項)。この「登録品種と特性により明確に区別されない品種」とは、登録品種と特性に差はあるものの、品種登録の要件としての区別性が認められる程度の明確な差がないものをいう。具体的には、登録品種との特性差が形質毎に設定される階級値(特性を階級的に分類した数値。例えば、登録品種がイチゴの場合の特性として、「果実の縦横比」、「果実の大きさ」、「果皮の色」等がある。)の範囲内にとどまる品種は、ここにいう「登録品種と特性により明確に区別されない品種」に該当する場合が多いと解され、特性差が上記の範囲内にとどまらないとしても、相違する項目やその程度,植物体の種類,性質等を総合的に考慮して,「登録品種と特性により明確に区別されない品種」への該当性を肯定することができる場合もあるというべきとされる。そして、「育成者権の効力が及ぶ品種であるか否かを判定するためには,最終的には,植物体自体を比較して,侵害が疑われる品種が,登録品種とその特性により明確に区別されないものであるかどうかを検討する(現物主義)必要があるというべきである。」とされる(平成27年6月24日知財高裁判決・平成27年(ネ)第10002号育成者権侵害差止請求控訴事件、原審:東京地判平成26年11月28日・平成21年(ワ)47799号/平成25年(ワ)21905号)。

 

【判決要旨】1.本件各植継行為等の信用性に対する判断前記前提事実、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件各分離行為、本件各植継行為及びその後複数回行われた植継行為(以下、併せて「本件各植継行為等」という。)により、被告各商品から分離されて植え継がれた菌糸につき、本件鑑定が行われたことが認められる。そこで、本件鑑定の信用性を判断する前提として、本件各植継行為等の信用性(争点1-1)を検討する。・・・そうすると、原告は、種苗管理センター等の第三者機関ではなく、原告自らあえて自社内で事前に本件試験管を準備するなど、原告品種の菌糸を混入させるに十分な時間があったことを踏まえると、本件試験管に目視できない程度の大きさの原告品種の菌糸を事前に混入することが十分可能であったというべきである。のみならず、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各植継行為等の後、本件親株を自ら又は種苗管理センターをして廃棄し、その合理的な理由を説明していないのであるから、原告は、本件各植継行為等の事後的な検証を自ら不可能にさせていることが認められる。これらの事情を総合すると、原告が本件試験管に原告品種の菌糸を事前に混入していた可能性を十分に否定することはできず、これを前提とする本件鑑定の結果は、その信用性を欠くものと認めるのが相当である。

2.その他本件各植継行為等は、本来的には、公平中立な第三者機関において実施されるべきものであり、仮に原告の自社内において実施せざるを得ない事情があったとしても、そもそも原告の自社内で実施する以上菌種の混在又は試験管のすり替えなどのおそれがあることは、被告らが主張するとおりである。その他に前記において説示したところを踏まえると、本件各植継行為等に当たっては、少なくとも、種苗管理センター等の第三者機関に当該試験管を用意させ、その親株も廃棄せずに保管しておくことは、裁判手続における鑑定の公平性、透明性の重要性に鑑み、必要不可欠であったというべきである。それにもかかわらず、原告は、あえてこれらを怠ったものであり、本件試験管を原告自ら用意する必要性及び相当性について合理的な説明をするものではなく、また、本件親株の廃棄についても、菌糸の植継ぎによって本件親株は不要となったから廃棄したにすぎず何ら問題がない旨説明するにとどまるのであるから、少なくとも本件各植継行為等は、上記において説示したとおり、信用性を欠くものであり、これを前提とする本件鑑定も、信用性を欠くというほかない。

 

【コメント】本件は育成者権侵害訴訟における侵害立証のための証拠としての鑑定の信用性について言及した貴重な裁判例である。育成者権の効力が及ぶ品種であるか否かを判定するためには、現物主義に基づき登録品種と侵害が疑われる品種を比較栽培する鑑定が不可避である。この点、種苗管理センター(https://www.naro.go.jp/laboratory/ncss/)は、種苗法第15条第2項に基づき、国が行う品種登録の審査に必要な出願品種と既存品種との区別性等のデータを得るための「栽培試験」を実施する機関であり、比較栽培試験について極めて専門性が高い。そのため、訴訟当事者は、公平中立な第三者機関として種苗管理センターに鑑定を依頼する場合が多いと考えられるが、本件判決からは、その際に試験管の用意を鑑定実施機関に依頼する、鑑定後の親株の保管も第三者に依頼する等極めて慎重に鑑定を実施することが重要であることが理解される。

 

【Keywords】育成者権、鑑定の信用性、現物主義

令和6年(ネ)10056【洗浄作業用バン型自動車】<中平裁判長>

令和6年(ネ)10056【洗浄作業用バン型自動車】<中平裁判長>

*侵害者製品とは別の製品について、販売の申出をした。⇒共同不法行為・否定

(判旨抜粋)被控訴人が、KCSから被控訴人製品2の納入を受けて、KCSが販売する被控訴人製品1と異なる「ECO ACE JET」の名称で販売の申出をしたとしても、それによって、KCSによる被控訴人製品1の販売を援助し又は容易にしたと認めることはできない。

 

 

【新着YouTube】充足論(典型的な文言充足以外)(特許裁判例事典、第4版の読み合わせ)2025/11/5

【新着YouTube】充足論(典型的な文言充足以外)(特許裁判例事典、第4版の読み合わせ)2025/11/5

<均等論・数値限定・用途発明など、充足論を巡る主要判例を、これ一本で一気にキャッチアップ>

 

 

【契約】東京地判令和4年(ワ)9422<澁谷裁判長>

【契約】東京地判令和4年(ワ)9422<澁谷裁判長>

被告は、「客観的に支払不能の状態」(本件契約17条2項)であったと認定され、解除が有効とされた。

『証拠(甲27、28、30)によれば、被告は、遅くとも令和7年2月7日 の時点で、客観的に支払不能の状態にあったと認めることができる。』

 

 

東京地判令和5年(ワ)70449【締結金物】<髙橋裁判長>

東京地判令和5年(ワ)70449【締結金物】<髙橋裁判長>

「過大な荷重が作用した際に変形を誘発させるため」というクレーム文言は、発明の構成を限定しない。(『前面部と後縁部を複数の枝状部で一体化する構成により果たそうとする目的ないし必然的に得られる作用・効果を示すものにすぎず、発明の構成を限定する意味をもたない。』)

⇒意匠公報に基づいて、新規性×(『甲5発明の柱材連結金具の複数の細板部は、本件発明の締結金物の複数の枝状部と形状において同一の構成を備えることにより、「過大な荷重が作用した際に変形を誘発させるため」と表現される作用・効果を必然的に得られる…。』

 

 

大阪地判令和5年(ワ)10217【立体網状繊維集合体】<松阿彌裁判長>

大阪地判令和5年(ワ)10217【立体網状繊維集合体】<松阿彌裁判長>

職務発明対価請求事件⇒棄却

(判旨抜粋)本件褒賞規定は、その制定及び改訂の過程において、一般的な勤務規則等が参照され、知的財産に知見を持つ者の意見も得た上、従業員等に案が開示され、意見聴取等を経て制定されたものであるから、被告においてされた職務発明の対価につき、適法な手続を経て定められた本件褒賞規定によって支払うことは不合理であると認めることはできない。…被告製品は、汎用的な立体網状繊維集合体として、クッション材などに利用される余地はあるとうかがわれるものの、原告らが超過売上高の根拠として主張する寝具用マットレス用途においては、一旦は商品化が実現し、一定期間の販売実績は上げたものの、マットレスとしての性能においては低位の評価を受け、商品化は終了したものとうかがわれる。…このような状況において、被告が、実施褒賞金の支給要件である「工業所有権の行使により、会社に対し大きな貢献をなした場合に」該当せず、本件各発明に対する実施褒賞を支給しないと判断したことに不合理な点はない。

 

 

【職務発明】東京地判令和5年(ワ)70495<中島裁判長>

【職務発明】東京地判令和5年(ワ)70495<中島裁判長>

*共同発明者と認められなかった。~原告が、発明完成時期を主張できなかった。

(判旨抜粋)原告は、原告発明の完成時期が原告説明書を作成した時期よりも前である旨主張するものの、これを裏付ける的確な証拠がない上、本件発明は、そもそも原告が関与することなく着想し及び具体化されたものである…。その他に、当裁判所は、当事者双方による主張立証の2往復終了後においても、本件発明に関する原告の関与の実態が明らかではないとして、当事者双方に対し、2回にわたり繰り返し釈明…をしたところ、その結果を踏まえて十分に検討しても、本件発明は、原告の関与の実態等に鑑みると、原告の関与なく着想及び具体化されたものであり、原告が本件発明の発明者又は共同発明者であると認めることはできない。

 

 

大阪地判令和4年(ワ)11405【複素環誘導体】<武宮裁判長>

大阪地判令和4年(ワ)11405【複素環誘導体】<武宮裁判長>

【職務発明の対価請求】約9400万円認容※職務発明規程が黒塗りで不明だが、本発明に適用されなかった。⇒平成16年改正前特許法(理由)被告には職務発明規程が存在したが、本件発明のようなケースに適用する合意があったとは認められず、法定の「相当の対価」を算定すべきとされました。

自己実施分(国内販売):(超過売上高)×(仮想実施料率 5.9%)×(1 - 使用者貢献度 99%)×(共同発明者の持分 1/3)

他者実施分(ライセンス収入):(ライセンス収入)×(1 - 使用者貢献度 99%)×(特許の貢献割合 25%※)×(共同発明者の持分 1/3)<※ライセンス契約にはノウハウやデータ提供も含まれるため、特許自体の貢献は25%に限定された。>

(判旨抜粋)本件職務発明規程は、●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●しかし、本件職務発明規程には、本件発明のように、上記定めに記載された発明に該当しない発明にも同規程が適用される旨の定めはなく、本件記録上、原告と被告との間で、上記のような発明に本件職務発明規程を適用する旨の合意が成立したと認めるに足りる証拠もない。

 

 

令和5年(ネ)10107『PCSK9(二次訴訟)』<中平裁判長>

令和5年(ネ)10107『PCSK9(二次訴訟)』<中平裁判長>

*二次訴訟で、新たに教授の技術意見書等を提出し、サポート要件違反となった。

アムジェンの特許発明は、具体的な抗体の構造(アミノ酸配列)を限定するのではなく、以下の機能で定義される抗体である。1.中和する: PCSK9とLDLRの結合を阻害する。2.競合する: アムジェンが作った特定の「参照抗体(21B12等)」と、PCSK9への結合を争う(競合する)。

裁判所は、「競合」には以下の2つのパターンがあると認定した。1.直接競合(Direct Blocking): 参照抗体と「同じ場所」に結合して邪魔をする。2.立体障害による競合(Steric Hindrance): 参照抗体とは「違う場所」に結合するが、抗体のサイズが大きいため、物理的に邪魔をして結合を阻害する。

本件明細書には、「同じ場所に結合する抗体(上記1)」については記載があったが、「違う場所に結合して立体障害で邪魔をする抗体(上記2)」が実際に中和作用を持つかどうかについての十分な開示(裏付け)がない。⇒サポート要件違反

訂正によりFab断片に限定しても、「立体障害によって競合するが、結合部位が異なる抗体」が含まれる可能性が残る。

 

 

東京地判令和4年(ワ)7976号【通信機器】<中島裁判長>

東京地判令和4年(ワ)7976号【通信機器】<中島裁判長>

*標準必須特許~侵害⇒差止請求は、権利濫用(当事者間で合意に至らなかったのは料率の隔たりによるものであり、被告にライセンスを受ける意思がないとはいえない。)

⇒損害額は、「被告製品の売上高 × LTE規格全実施料率 ÷ LTE規格全特許数(1300件) × 本件特許数(1件)」「LTE規格全実施料率」については、LTEのみ対応製品は9%、5G対応製品(LTEの貢献度が相対的に下がるため)は8%。侵害プレミアム(特許法102条4項)による増額は、FRAND条件の性質上認められなかった。

 

 

令和6年(ネ)10074【電子タバコ用充填物】<増田裁判長>

令和6年(ネ)10074【電子タバコ用充填物】<増田裁判長>

 

「切込み」(構成要件B)の意義について、各種辞書の記載を検討すると、「切り込む」、「切り目を入れる」、「切る」という能動的な行為が想定され、さらに、それが刃物によることを明示する例が複数存在する。

 

したがって、「切込み」とは、刃物を用いて人為的・能動的に「切り目」ないし「切れ目」が形成された構造ないし状態を意味する。

 

本件明細書において、切込みの形成手段としてカッター刃、カミソリの刃、ロータリーカッター等が例示されているのみであり、刃物以外による形成手段についての記載も示唆もない。

⇒被告製品について検討すると、たばこスティック(ロッド)の長手方向に沿ってたばこ基体の表面に略平行に3本形成された筋状部分は、捲縮加工工程における捲縮条件を制御することにより形成されたものであり、刃物によって形成されたものではない。

⇒非充足(原審・東京地判令和5年(ワ)70407と同じ理由)

 

 

 

令和6年(行ケ)10109【介助機】<本多裁判長>

令和6年(行ケ)10109【介助機】<本多裁判長>

再審請求の対象は原審決と解されるところ、第4次再審審決より前に確定した原審決が第4次再審審決と抵触することをもって、特許法171条2項が準用する民訴法338条1項10号による原審決の再審事由とならない。仮に、原告が、再審請求の対象を第4次再審審決とし、これが原審決と抵触することを再審事由として主張するものと解するとしても、原審決は拒絶査定不服審判請求を不成立とする審決であり、第4次再審審決は再審の請求を不適法なものとして却下する審決であるから、第4次再審審決は原審決と抵触せず、原告の請求には理由がない。

 

 

東京地決令和6年(行ウ)5001<澁谷裁判長>

東京地決令和6年(行ウ)5001<澁谷裁判長>

国際特許出願(PCT出願)を行った原告が、特許法で定められた「翻訳文」の提出前に「出願審査請求」を行ったところ、特許庁より当該請求を不適法として却下されたため、その処分の取消しを求めた。⇒却下

特許法184条の17は、外国語特許出願について、翻訳文提出等の手続をした「後」でなければ出願審査請求ができないと規定している。この規定が出願審査請求前に翻訳文を提出することを手続要件とするものであり、この先後関係の瑕疵(誤り)は、事後的に翻訳文を提出しても治癒されない。本件において、審査請求時に翻訳文が未提出であったことは明らかである。仮に裁判所が本件処分を取り消したとしても、当該審査請求が同法に違反している事実に変わりはなく、瑕疵が治癒される余地もないため、特許庁は再度却下せざるを得ないから、本件処分を取り消しても原告に実益はなく、訴えの利益は存在しない。

 

 

令和6年(行ケ)10022【…抗微生物剤】<本多裁判長>

令和6年(行ケ)10022【…抗微生物剤】<本多裁判長>

主引用発明の治療対象を(足白癬または外用皮膚真菌症から)「爪白癬」とし、相違点に係る構成とすることが容易想到であるためには、本件出願日当時の技術水準に照らし、当該治療剤を爪甲に単純塗布したときに、有効成分であるKP-103が爪甲の内部まで浸透、透過し、感染部位である爪甲下層及び爪床に送達され、治療効果を発揮することが合理的に期待できることを要する。⇒医薬用途発明の進歩性〇

(判旨抜粋)(1)本件出願日当時の技術常識としては、①トリコフィトン・ルブルム及びトリコフィトン・メンタグロフィテスが足白癬と同様に爪白癬の原因菌の大半を占めていること、②外用剤による爪白癬の治療を効果的に行うには、抗真菌剤を爪甲の角質内に浸透させ、感染部位に送達させる必要があるが、爪甲の性質上、抗真菌剤がその内部まで浸透、透過しにくいという障害があって、爪白癬の外用剤での治療は非常に困難とされていた一方、経口剤にも副作用の問題があり、外用剤の開発が待たれていたこと、③爪と毛髪が、いずれも硬ケラチンを含み、アミノ酸組成も互いに類似することが、それぞれ認められる。

(2)本件出願日当時に知られていた技術的知見としては、④外用抗真菌剤を感染部位に送達させるための試みとして、ネイルラッカー剤の開発や、爪甲を化学的又は外科的に除いて抗真菌剤を塗布し、密封包帯法(ODT)と併用する治療等が行われていたこと、⑤抗真菌剤であるチオコナゾールを外用爪白癬治療剤として評価する甲6試験が実施されたこと、⑥KP-103は、ヒト毛髪(ケラチン)を添加しても、抗トリコフィトン・メンタグロフィテス活性が減少せず、ケラチンに対する低い吸着、高い遊離といった性質を有すること、⑦抗真菌薬の角質への吸着性と角質吸着時の活性の低下について、ヒト毛髪を用いて評価する研究があったことが、それぞれ知られていたと認められる。

(3)主引用発明(甲1-1発明)の外用真菌症治療剤の治療対象を「爪白癬」とし、相違点に係る本件訂正発明の構成とすることが当業者において容易に想到できたというには、本件出願日当時の技術水準に照らし、当該治療剤を爪甲に単純塗布したときに、有効成分であるKP-103が爪甲の内部まで浸透、透過し、感染部位である爪甲下層及び爪床に送達され、治療効果を発揮することが合理的に期待できることを要する。上記(1)及び(2)の技術常識、技術的知見を総合すると、本件出願日当時、当業者において、そのように合理的に期待できるとはいえない。また、本件明細書等に示された本件訂正発明の効果は、本件出願日当時の技術常識に照らすと、当業者において予測することが困難であった。したがって、本件訂正発明は、本件出願日当時、当業者において甲1-1発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

 

 

令和7年(ネ)10029『特許を受ける権利の確認請求』<増田裁判長>

令和7年(ネ)10029『特許を受ける権利の確認請求』<増田裁判長>

*文系の学部を卒業し、起業したが、臨床上の知見はない。⇒発明者性×(協力者である教授が発明者。)

<発明者性(職務発明)>当該発明における技術的思想の創作行為、とりわけ従前の技術的課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与することが必要である。本件発明1-3の特徴的部分は、血管内の瘤の破裂を予防するため瘤を塞栓するプッシャワイヤとメッシュ部とを備えた血管プラグにおいて、サイズの異なる複数の血管プラグを用意しなければならず、また、メッシュ部の急激な拡張により瘤を損傷する危険があるという課題があったため、ステントの先端部が、非収納時には、カテーテルの先端部から押し出され、外向きにカールしながら拡張する構成を採用したこと、それにより、瘤に対するサイズの自由度が高く、また、分岐部動脈瘤に損傷を与えないことにある。Y1は文系の学部を卒業し、金融機関に勤務した後、理学博士の兄と共に第1審原告会社を立ち上げたが、臨床上の知見はない。一方、協力者であったA教授は、臨床経験豊富であり、A教授の研究ノートには、本件発明1-3の課題と解決手段が明確に記載されており、本件発明1-3の特徴的部分の完成に現実的に関与したのは、A教授と認めるのが相当である。

<PCT出願に係る特許を受ける権利の確認請求>第1審原告は、本件訴訟において特許を受ける権利の確認判決を得た後、特許協力条約の締約国の中から現実に特許を取得したい国や地域を選択して、新たな出願又は権利の回復の手続を求めていくとする。しかし、属地主義の原則に照らし、特許を受ける権利が諸外国においてどのように取り扱われ、どのような効力を有するかについては、当該特許を受ける権利に基づいて特許権が登録される国の法律によって決せられると解されるところ、当該発明につき、いかなる外国においても新たな出願又は国内移行等がされておらず、その具体的な予定も明らかにされていない現時点において、当該発明につき特許を受ける権利を確認することについて、紛争の成熟性を認めることはできない。

 

 

令和5年(行ケ)10078【オーディオコントローラ】<清水裁判長>(被告:ピクシーダスト)

令和5年(行ケ)10078【オーディオコントローラ】<清水裁判長>(被告:ピクシーダスト)

C(受託者)は、本件発明とは別の課題を解決しただけ。⇒冒認・共同出願違反不成立

(判旨抜粋)AとB(委託者)は、PDT社が原告に本件試作機を発注する前から、「フェーズドアレイスピーカー」の着想を得ていたと認められる。…AとBは、超音波の研究者であって、従来技術であるパラメトリックスピーカーの基本原理も認識していたと認められ、また、一定の制約があるとはいえ、焦点位置で可聴音を発生させることができる本件実験機を開発していたのであるから、AとBの着想は、原告が主張するような単なる思い付きのレベルではなく、具体的な解決手段を伴う着想であった…。…

以上によれば、本件試作機が備える…各機能のうち、可聴音の波形が焦点位置で集束するような位相差で放射し、焦点位置で可聴音の波形を揃える機能…は、可聴音の音質を向上させるものではあっても、本件発明の技術的課題は、使用環境の制約の除去であって、可聴音の音質の向上ではないから、本件試作機の当該機能は本件発明の特徴的部分に当たるものではない。その余の点も、本件発明の特徴的部分を実施する場合における具体的・客観的な態様の一つにすぎず、その内容に応じ、本件発明とは別の課題を解決したものということができることがあるとしても、本件発明の課題を解決したということはできない。すなわち、本件試作機の各機能は、本件実験機の開発によって、本件発明の特徴的部分は当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成され、本件発明が完成していたとの前記認定を左右するものではない。

以上によれば、Cらは、本件発明の特徴的部分を当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成した者ということはできず、本件発明の発明者(共同発明者)ではない…。

 

 

令和5年(ワ)70563【取引管理システム】<澁谷裁判長> (キーソフト v. サンカクキカク)

令和5年(ワ)70563【取引管理システム】<澁谷裁判長>(キーソフト v. サンカクキカク)

本件発明における「中間取引者」とは、商品受取者である「下流取引者」と商品発送者である「上流取引者」の中間に介在し、特定の商品について段階的な売買取引、すなわち下流取引者から対象商品の売買について発注を受け、それを踏まえて上流取引者に当該商品の売買について発注を行う者を意味する。

被告システムは「ふるさと納税制度」に係るものであるところ、ふるさと納税は経済的利益の無償の供与(寄附)であり、返礼品の提供も寄附への御礼としての無償行為であって、寄附金と対価関係を有しない。したがって、寄附者との間に売買取引(有償取引)があるとは認められず、地方団体は「中間取引者」に該当しない。

また、被告システムの動作としても、寄附者の申込みにより地方団体と事業者にメールで通知されるものの、地方団体が発注情報を受領した上で事業者へ通知を行うことは予定されておらず、地方団体が寄附者からのメールを踏まえて事業者に発注指示を行う関係にはない。よって、地方団体は段階的な商品取引者とはいえず、この点でも「中間取引者」には該当しない。

 

 

東京地判令和5年(ワ)70594【マットレス】<勝又裁判長>

東京地判令和5年(ワ)70594【マットレス】<勝又裁判長>

本件発明における「圧着」とは、強く圧迫してくっつくことまでを要するものではなく、手足等の落ち込みを防ぐ目的から、「クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかる状態」をいうと解される。原告の測定により、被告製品の中材間には0.2MPa以上の圧力がかかっていることが認められるため、被告製品は「圧着」の要件を充足する。⇒充足

(判旨抜粋)ア 本件発明においては、マットレスカバーが複数のクッション体を圧着させながら嵌め込み可能である有底筒状のカバー部材を有するものとされ(構成要件G)、複数のクッション体は、圧着した状態で前記マットレスカバーに組入れられているものとされている(構成要件H)。そして、「圧着」は「強く圧迫してくっつけること」という意味を有するが(広辞苑第七版。乙1)、「圧」が「おさえる。おしつけて動けなくする」を意味する(広辞苑第七版付録。甲15)ことからすると、「圧着」には「押さえてくっつく」といった程度の意味があるともいえる。イ  次に、本件明細書をみると、「圧着」に関して、「例えば3個のクッション体を組入れる場合、まず底面側カバーの長さ方向両側の内面に2つのクッション体の側面をそれぞれ押し当てておき、これらのクッション体の間に、残りのクッション体(山折りしておいても良い)を下向きに押し込むことにより、全てのクッション体を圧着した状態でマットレスカバーに容易に組入れることが可能となる。」(【0017】)との記載や、「図5は、マットレス1について、底面側カバー10bにクッション体21~23を圧着させながら収容する様子の一例を示す概念図である。」(【0050】)、「図5には、マットレスカバー10内に複数のクッション体21~23を組入れる方法として、底面側カバー10bの長さ方向両側の側面部13(側面部13の前側と後側)を利用する方法が例示されている。この方法では、まず側面部13の前側と後側に2つのクッション体21、23の側面をそれぞれ押し当てて、その後、クッション体22を鉛直方向下向きに押し込む。この方法により、複数のクッション体21~23を、圧着した状態でマットレスカバー10に容易に組入れることができる。」(【0051】)との記載があり、マットレスカバー内に複数のクッション体を組入れる方法に係る【図5】をみると、2つのクッション体の間に、別のクッション体が下方向に押し込まれて、マットレスカバー内に3つのクッション体が隙間なく接して設置されていることが図示されているものの、クッション体同士が相互に、左右方向に強い圧力をかけるというような表現はされていない。このことに加え、前記1(2)のとおり、本件発明が、手足等が溝に落ち込みにくいマットレスを提供するという効果を奏するものであるところ、本件明細書の記載によると、上記効果は、「マットレスカバーの周面部(側面部)には伸張防止部材が設けられている」(【0011】)ことによるものであって、クッション体同士が強く圧迫してくっついていることによるものとはされていないことを総合すると、本件発明では、手足等が落ち込みにくくなるように、クッション体の境界部に手足等が落ち込むような隙間が生じていないことは予定されているといえるものの、クッション体同士が強く圧迫してくっついているような状態にあることまで予定されていると認めることはできない。そうすると、本件発明における「圧着」とは、クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかる状態であることをいうものと解するのが相当である。

 

 

令和5年(ネ)10114【キューブコーナー素子を有する層状体および再帰反射シート】<中平裁判長>

令和5年(ネ)10114【キューブコーナー素子を有する層状体および再帰反射シート】<中平裁判長>

=令和5(行ケ)10102

 

*数値限定の技術的意義が明細書に記載なし

⇒設計事項

 

(判旨抜粋)

本件明細書には、「素子は、好ましくは、1分~60分の角度の二面角誤差を有する。」…と記載されているが、好ましいとする根拠については何ら記載されていない。

一方で、本件明細書に記載された…全ての実施例において…0.1分、-0.5分、0.8分等の1分未満の二面角誤差の実施例が記載されており、これらについては、いずれもスポットパターンは均一に分布し、本件各発明の作用効果を奏するものとされている。上限値に関しても、上記のとおり構成要件1-C4、4C-1はこれを60分とするところ、実施例に示された二面角誤差の最大値は-19.8分であり…、上限値を60分とする根拠に係る記載もない。さらには、本件明細書に記載された実施例から、上記構成要件記載の数値範囲内のみからなるスポットパターンを抽出してこれを比較したとしても、スポットパターンが均一に分布するとの作用効果を奏することが示される実施例は存しない…。

そうすると、本件各発明の構成要件に記載された上記二面角誤差の数値範囲には、特段の技術的意義が認められないというほかなく、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものと認められる。

 

 

令和5年(行ケ)10121【撮像装置】<増田裁判長>

令和5年(行ケ)10121【撮像装置】<増田裁判長>

請求項における「直交する」という記載は、第1軸と第2軸の交差角度を規定するものではなく、ディスプレイの長方形の二辺が角で直角に交わっている位置関係を示したものである。図4Bにおいて軸Aが動くように描かれているのは明らかな誤記であり、当業者は正しい構成(軸Aは追従しない)を容易に理解できる。

⇒サポート要件〇

 

 

令和5年(ワ)70004【携帯情報通信装置】<髙橋裁判長>

令和5年(ワ)70004【携帯情報通信装置】<髙橋裁判長>=令和5年(ワ)70035=令和4年(ワ)70131

本件特許の優先日当時、当業者にとって、乙6発明に…技術常識を適用し、簡易型液晶表示パネル23では明瞭に表示できない画像情報を外部から取り込むための構成として、通信部12が当該画像情報を伝達する無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、CPU11に送信し、CPU11が当該デジタル信号を受信するとの相違点①に係る構成を想到することは容易であった。⇒進歩性×

 

 

東京地決令和5年(ヨ)第30214号仮処分命令申立事件<杉浦裁判長>

東京地決令和5年(ヨ)第30214号仮処分命令申立事件<杉浦裁判長>

 

 

 

東京地判令和5年(ワ)70527【環状タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤】<杉浦裁判長>

東京地判令和5年(ワ)70527【環状タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤】<杉浦裁判長>

「延長された特許権の効力範囲」は、政令処分の対象となった物(先発医薬品「スプリセル錠」)及びこれと「医薬品として実質同一なもの」に及ぶ。医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明において、対象製品が有効成分以外の成分で異なる場合、その変更が「周知・慣用技術」に基づくものであれば実質同一に含まれる。

本件において、処分の対象となった「スプリセル錠」は有効成分が「ダサチニブ水和物」で添加剤としてPEGを含むのに対し、原告製品は有効成分が「ダサチニブ(無水物)」でPEGを含まずカルナウバロウ等を添加しているという差異がある。この差異は、原告製品が「無水物」を採用したことに起因する安定性や溶出性の課題(無水物は水和物より光安定性が低く溶解度が高い等)に対処するため、原告が独自の工夫を行った結果である。具体的には、PEGをHPCに転換し、コーティング剤の成分を調整(カルナウバロウの添加等)したことは、単なる周知・慣用技術の適用ではなく、生物学的同等性を確保するための積極的な製剤設計によるものと推認される。したがって、原告製品はスプリセル錠と「医薬品として実質同一」とは認められず、延長された本件特許権の効力は原告製品には及ばない。⇒請求棄却

★同じ杉浦裁判長で、仮処分(令和5年(ヨ)第30214号仮処分命令申立事件)と判断が変わった!!⇒控訴審に要注目多くの実務家、学者がオキサリプラチン知財高判に照らして充足なのではないかと意見を述べており、逆の意見を聴かないので、控訴審が注目ですね。レミッチを見ても、知財高裁は薬はプロパテントですからね。ダサチニブ一審判決の結論が変わらないとしても、添加物違いの課題絡みの技術的意義を問題とするロジックを維持するのか、有効成分が違う場合に射程が限定されるかも要注目です。前者のまま維持されるならば、後発企業は、課題創作+添加物違い+特許取得で容易に効力範囲外にできてしまいますからね。https://www.bms.com/assets/bms/japan/pressrelease/20231129-pdf.pdf

 

 

令和6年(ネ)10080【笠木下換気構造体】<中平裁判長> =原審・大阪地判令和5年(ワ)8403

令和6年(ネ)10080【笠木下換気構造体】<中平裁判長>=原審・大阪地判令和5年(ワ)8403

「通気性能及び防水性能を発揮する換気部材」という文言及び本件明細書の記載(課題・解決手段・効果)に照らせば、換気部材「それ自体」が通気性能及び防水性能を有することを要すると解釈するのが自然である。⇒被控訴人製品の板状部分は、それ自体が要件を満たすとは認められない。

控訴人は、部材が防水・通気に「寄与」しているかで判断すべきとも主張したが、裁判所は、この手法を用いるべき合理的根拠がない。加えて、被控訴人製品の傾斜部⑤は、通気路を狭めており、これがない場合に比べて通気性能を下げるものであるから、通気性能に寄与しているとはいえず、構成要件Cを充足しない。

 

 

令和6年(ネ)10072【ドラフト差測定装置】<中平裁判長>

令和6年(ネ)10072【ドラフト差測定装置】<中平裁判長>

『本件特許維持費用等のうち、異議申立手続のために支出した費用は、一審被告及び日本製鉄による本件特許に係る特許異議の申立てに対応するための費用であるが、上記の特許異議の申立てが違法であったとは認められないから、一審被告の不法行為の存在は認められない。本件特許維持費用等のうち、異議申立手続のための費用以外の費用については、一審原告が自らの判断で本件特許の出願及び維持のために支出したものであり、そも そも一審被告の行為によって一審原告がこれらの費用を支出しなければならなくなったものではないから、一審被告の行為と一審原告の支出との間に相当因果関係があるとは認められない。』

 

 

【著作権法★】被控訴人(被告)が、控訴人(原告)の発行する新聞の記事(見出し、記事本文、本件各写真)をスマートフォンの写真1枚に写り込む限度で撮影し、25回にわたり、インターネットを利用して、投稿本文とともにツイッター(X)に投稿した行為について、控訴人が本件各写真の著作権(送信可能化権)侵害を主張して、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案において、引用の抗弁(著作権法32条1項)又は付随対象著作物の利用の抗弁(著作権法30条の2)を認めて、控訴人の請求を棄却すべきものとした事例

知財高判令和7年7月31日(令和6年(ネ)第10075号)(清水響裁判長)

 

 

 

【事案の概要】

 

本件は、宗教法人である控訴人(「原告」)の発行する聖教新聞の紙面上の記事(見出し、記事本文、本件各写真(本件写真1~37))を、会員である被控訴人(「被告」)が、スマートフォンの写真1枚に写り込む限度で撮影し、25回にわたり、インターネットを利用して、投稿本文とともにツイッター(X)に投稿した行為について、原告が本件各写真の著作権(送信可能化権、著作権法23条)を侵害すると主張して不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、著作権法114条3項)をする事案である。

原審(東京地方裁判所令和5年(ワ)第70388号)は、本件各写真について引用の抗弁(著作権法32条1項)を認め、原告の請求を棄却した。これに対し、原告が本件控訴を提起した。

本判決は、本件各写真について引用の抗弁又は付随対象著作物の利用の抗弁(著作権法30条の2第1項)を認めて、原告の請求を棄却すべきものとし、本件控訴を棄却した。

 

 

【判決要旨】

 

1.引用の抗弁(著作権法32条1項)について

(1)引用の抗弁の要件及びその解釈

著作権法32条1項の規定の文言によれば、著作物の全部又は一部を著作権者の承諾を得ることなく自己の作品に含めて利用するためには、①利用される側が公表された著作物であること、②当該著作物の利用が引用に該当すること、③当該引用が公正な慣行に合致すること、④当該引用が報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること、の各要件を満たすことを要する。

そして、著作物等の文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与するという著作権法の目的(著作権法1条参照)や、著作権の保護を図りつつ、文化的所産としての著作物等の公正な利用を可能ならしめる著作権法32条1項の規定の趣旨を考慮すると、②の「引用」については、一般には、利用する側の作品から利用される側の著作物を明瞭に区別して認識できることが必要であり、また、利用する側の作品と利用される側の著作物の間に、利用する側が主、利用される側が従という主従関係があることを要するものと解するのが相当である。ただし、この主従関係も、量的な比較のみにより形式的に判断するのではなく、利用する側の作品や利用される側の著作物の性質、引用の目的、引用の方法や態様等の様々な要素を考慮した上、社会通念に照らし、実質的に判断すべきものであり、その場合には、④の「引用の目的上正当な範囲内」の判断とも一部重なることになる。

また、③の引用が「公正な慣行」に合致することについては、当該分野や公表媒体等における引用に関する公正な慣行が存在するのであれば、引用して利用する方法や態様が当該慣行に合致すると認められるかにより判断され、これが存在しないのであれば、社会通念上相当な方法等によるものと認められるかにより判断されるものと解される。この場合において、利用される側の著作物の出所が明らかにされていることは、当該公正な慣行又は社会通念上相当な方法等の一要素として考慮され得るものと考えられる。

さらに、④の引用が「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われることについては、引用の目的の内容及び正当性、引用の目的と利用される側の著作物との関連性、利用される側の著作物の性質、引用された範囲及び分量、引用の方法及び態様、利用する側が得る利益及び利用される側が被る不利益の程度等を考慮し、前記著作権法の目的及び規定の趣旨を踏まえ、総合的に評価するほかはない。

 

(2)あてはめ

ア.はじめに

本件各写真(引用)(本件写真1~9、11~26、30~37)は、記事と一体となって出来事を報道するために同じ紙面に掲載された報道写真であるから、それ自体は写真の著作物だとしても、引用の目的が記事により報道されている出来事と一定の関連性があれば、当該記事の一部を構成する報道写真についても同様の関連性が認められる。また、著作権法32条1項の規定の文言上、引用の必然性や厳格な必要性までは要求されていないから、広く時事の出来事を知らしめ、読者の意見等の形成に資することを目的とする記事及び報道写真の性質に照らすと、著作権の保護と利用の調和という観点からは、記事及び報道写真により報道された出来事と引用の目的とに関連性が認められる場合には、商業的利用の有無、主従関係の要件の充足その他の事情を考慮した上で、本件各写真(引用)の引用が「引用の目的上正当な範囲内」の引用であると認めることは妨げられない。

イ.引用に該当すること

本件各投稿の投稿本文の部分と本件各写真(引用)を含む引用部分とは、明瞭に区別して認識することができる。また、本件各投稿の内容や本件各写真等の性質、引用の目的、引用の方法・表現態様等に照らせば、社会通念上、ツイッターの本文として投稿された部分が主であり、本件各写真(引用)が従であると認められる。

ウ.公正な慣行に合致すること

被告は、本件各投稿の投稿本文に聖教新聞からの引用である旨記載し、又は「聖教新聞」の題字を写り込ませてその写真を掲載するなどして、いずれも新聞紙面を撮影した写真とこれを批評する投稿本文という同様の体裁のものとして、概ね継続して投稿しており、本件各投稿の読者の多くが原告の会員やその関係者であると考えられることに照らすと、投稿内容や前後の投稿を参照することにより掲載された本件各写真(引用)の出所を容易に読み取ることができ、社会通念上相当な方法に合致する。

エ.引用の目的上正当な範囲内であること

本件各投稿は、投稿本文並びに「聖教新聞」の紙面上の記事及び本件各写真(引用)をスマートフォンの写真1枚に写り込む限度で撮影した写真から構成され、本件各投稿の目的は、原告の機関紙である聖教新聞の記事本文又は本件各写真(引用)を通じて被告が認識した原告の活動等を批評することを目的とするものと認められ、当該目的に不相当・不適切な点は認められない。本件各写真(引用)は、引用の目的との関係で、いずれも関連性が認められる。本件各投稿における批評を理解するために、スマートフォンの写真1枚に写りこむ限度で撮影された紙面中の本件各写真(引用)が引用の範囲として過大であったとまでは認められないから、本件の引用により利用された著作物の範囲及び分量は相当であったというべきである。そして、被告が本件各投稿により商業的利益を得た事実は認められない上、本件各写真(引用)の引用を認めることにより原告が販売部数の減少等の経済的不利益を被ることを認めるに足りる証拠はない。

オ.まとめ

以上によれば、本件各投稿に掲載した本件各写真(引用)については、引用の抗弁(著作権法32条1項)が成立する。

 

2.付随対象著作物の利用の抗弁(著作権法30条の2第1項)について

本件各写真(付随)(本件写真10、27~29)に係る付随対象著作物の利用の抗弁については、経過規定の不存在、法改正の経緯及び目的等を踏まえると、令和2年改正法による改正後の同法30条の2の規定は、令和2年改正法施行前に行われた行為についても適用されると解するのが相当である。

そして、本件各投稿に掲載された紙面の写真(作成伝達物)のうち本件各写真(付随)の占める割合から、本件各写真(付随)は、軽微な構成部分(付随対象著作物)と認められる。また、本件各写真(付随)は、被告がその利用により利益を得る目的はなく、批評の対象とされた新聞記事に隣接するために分離して撮影することも困難であって、作成伝達物において特段の役割を果たすものでもないことなどからすると、付随対象著作物として正当な範囲内で複製伝達行為に伴って利用されているものといえる。

以上によれば、本件各写真(付随)については付随対象著作物の利用の抗弁が成立する。

 

 

【コメント】

 

1.判決要旨1(1)について

最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁〔マッド・アマノ事件〕は、旧著作権法に基づく引用の抗弁について、以下の要件①及び②が必要であると判示した。

① 引用された著作物が引用する著作物と明瞭に区別できること。

② 引用された著作物が引用する著作物に従属していること。

一方、現行著作権法32条1項は、引用の抗弁について、以下の通り規定する。

「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」

また、引用の抗弁については、現行著作権法48条1項により、引用された著作物の出所を合理的と認められる方法及び程度で明示することが必要とされる。

そして、一般に、旧著作権法の解釈に係るマッド・アマノ事件最高裁判決は、現行著作権法32条1項の解釈にも適用され得るものと考えられているため、上記①及び②と現行著作権法32条1項に基づく引用の抗弁との関係について、例えば以下のような多くの分かれた裁判例や学説が存在する。

A)   上記①及び②は、必要かつ十分な要件である(東京高判昭和60年10月17日無体集17巻3号462頁〔藤田嗣治事件〕等)。

B)  上記①及び②は、重要な考慮要素となり得るが、他にも重要な考慮要素があり得、事案に応じて総合考慮により判断される(知財高判平成22年10月13日判時2092号135頁〔絵画鑑定証書事件〕等)。

C)  上記①及び②は、必要な要件であり、他にも要件が存在する。(知財高判令和4年3月29日(令3(ネ)10060号)裁判所ウェブサイト〔KuToo事件〕等)

また、上記①及び②と、現行著作権法32条1項所定の「引用」、「公正な慣行に合致」及び「目的上正当な範囲内」との各文言との関係についても、例えば以下のような多くの分かれた裁判例や学説がある。

a)  上記①及び②は、「引用」、「公正な慣行に合致」及び「目的上正当な範囲内」の全各文言に関連し得る(東京高判昭和60年10月17日無体集17巻3号462頁〔藤田嗣治事件〕、知財高判平成22年10月13日判時2092号135頁〔絵画鑑定証書事件〕等)。

b)  上記①及び②は、「引用」の文言に関連する(知財高判令和4年3月29日(令3(ネ)10060号)裁判所ウェブサイト〔KuToo事件〕)。

c)  上記①は「引用」の文言に関連し、上記② は「目的上正当な範囲内」の文言に関連する(東海林保「引用の抗弁」髙部眞規子編『知的財産権訴訟Ⅱ最新裁判実務大系11』(青林書院、2018年)713~714頁)。

なお、知財高判平成22年10月13日判時2092号135頁〔絵画鑑定証書事件〕において引用する側が著作物であることは要しないものとされている。

かかる裁判例及び学説の状況の下で、判決要旨1(1)は、基本的に上記C)及びb)によったものと理解される。

 

2.判決要旨1(2)について

判決要旨1(2)は、引用の抗弁の成否について、明瞭区別性及び主従関係という引用該当性の要件は勿論、公正な慣行に合致すること及び引用の目的上正当な範囲内であることという他の各要件も、判決要旨1(1)における同各要件に係る具体的な解釈論の下で、本件の事案に応じて丁寧にあてはめを行っており、実務上参考になる。

 

3.判決要旨2について

原審が本件各写真の全てについて引用の抗弁を認めたのに対し、控訴審は、本件各写真(引用)(本件写真1~9、11~26、30~37)についてのみ、判決要旨1(2)の通り引用の抗弁を認め、本件各写真(付随)(本件写真10、27~29)については、判決要旨2の通り付随対象著作物の利用の抗弁を認めた。この点、控訴審は、本件各写真(付随)(本件写真10、27~29)については、被告の投稿本文による批評の対象ではなく、被告の投稿本文と関連性がないため、引用の抗弁を認め難いと考えたものと推察される。

 

 

【Keywords】創価学会、聖教新聞、引用の抗弁、明瞭区別性、主従関係、付随対象著作物の利用の抗弁

 

 

 
 
 

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