【知財実務オンライン】米国特許IDS実務の見直し ~「念のため全部出す」から「ルールベースの選定」へ~(Kim and Stewart LLP パートナー カリフォルニア州弁護士・米国パテントエージェント・日本弁理士 竹内茂樹)
更新日:4 時間前
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分類:米国
論点:情報開示義務
HP掲載日:2026-09-29
【知財実務オンライン】米国特許IDS実務の見直し ~「念のため全部出す」から「ルールベースの選定」へ~(Kim and Stewart LLP パートナー カリフォルニア州弁護士・米国パテントエージェント・日本弁理士 竹内茂樹)
米国特許のIDS実務について、従来の「念のため、把握した文献を全部提出する」という運用を改め、①文献の関連性・累積性、②提出時期と費用、③将来の権利行使可能性を考慮した「ルールベースの選定」に移行すべきである。
もっとも、IDSを実質的に廃止してよいという趣旨ではない。
THERASENSE判決後、不公正行為の立証要件は厳格化されたが、情報開示義務自体は依然として存在する。
したがって、提出しない文献については、恣意的に除外するのではなく、合理的な選定基準を定め、不提出理由を記録することが重要である。
1 IDS制度の概要
①米国特許出願の準備・審査に実質的に関与する者には、USPTOに対する誠実義務・情報開示義務がある
②重要情報を意図的に開示せず特許を取得すると、後の訴訟において不公正行為が認定され、特許全体が権利行使不能となり得る
義務を負う者には、発明者、出願人企業の担当者、米国代理人だけでなく、実体的な出願業務に関与する日本側の弁理士等も含まれ得る。
開示対象となるのは、概ね次の情報である。
・単独又は他の情報との組合せにより、クレームの特許性を否定し得る情報
・USPTOに対する出願人の主張と矛盾する情報
・先行技術文献だけでなく、公然実施、販売、販売の申出、試験結果、他の規制当局に提出した資料等
・IDS義務違反は、通常、審査官が出願手続中に判断するのではなく、特許成立後の侵害訴訟等で裁判所が判断する問題となる。
2 THERASENSE判決の意義
THERASENSE判決は、不公正行為の認定基準を大幅に厳格化した判決である。
従前は、情報の重要性が高ければ、欺く意図の立証が比較的弱くても不公正行為を認める、いわゆるスライディングスケール的な運用があった。しかし、同判決は、次の2要件をそれぞれ独立して要求した。
当該情報が開示されていれば、審査官はクレームを拒絶していたであろうという「BUT-FOR重要性」
当該情報を知り、その重要性を認識し、USPTOを欺くため意図的に開示しなかったという「特定の欺罔意図」
後者については、欺罔意図が証拠から導かれる「唯一の最も合理的な推論」であることが必要とされる。単なる過失、不注意、社内データベースへの文献登録、関連出願での文献認識だけでは、原則として足りない。
ただし、悪質な積極的不正行為については、BUT-FOR重要性を厳密に満たさなくても不公正行為が問題となり得る。
(判決紹介の一部を省略)
5 IDSの提出時期と費用
①最初の実体的拒絶理由通知前
②最初の実体的拒絶理由通知後から最終拒絶又は許可通知前
③最終拒絶又は許可通知後から発行手数料納付前
④発行手数料納付後
提出が遅くなるほど、所定の陳述書、追加手数料、RCE又はQPIDSが必要となり、費用が増加する。
日本代理人費用を約2万円、米国代理人費用を約200ドル。
6 講師が提案するルールベースの選定
<原則として提出する情報>
日本出願の明細書に先行技術として記載した文献
国際調査報告等のX文献・Y文献
関連米国出願で引用された重要文献
出願人の主張と矛盾する可能性のある情報
<個別判断する情報>
社内調査又は外部サーチで得られた文献
発明者等が独自に把握した文献
外国調査機関がA文献と評価した文献
既に提出した文献と累積的である可能性が高い文献
A文献であることだけを理由に機械的に不提出とすることは適切ではない。外国特許庁と米国では、クレーム解釈や特許性判断の基準が異なるためである。
不提出と判断する場合には、少なくとも次の事項を記録することが推奨されている。
文献番号
取得日
取得経緯
不提出理由
既提出文献との累積性
出願人の特許性に関する主張と矛盾しないこと
判断者及び判断日
この記録は、「欺くため意図的に提出しなかった」という推論を否定する証拠となり得る。また、担当者の退職・異動後にも判断経緯を追跡できる。
7 避けるべき4つの行為
①文献の危険性・関連性について、軽率な表現でメール等に記載すること
②重要部分を省略した部分翻訳を提出すること
③USPTO、外国特許庁、規制当局、訴訟において相互に矛盾する主張をすること
④出願手続又は訴訟手続において、虚偽説明、隠蔽、証拠開示の妨害等を行うこと
もっとも、判断過程を一切記録しないという意味ではない。あらかじめ定めた様式に従い、関連性、累積性及び不提出理由を客観的に記録することが推奨されている。
8 外国語文献の翻訳
外国語文献については、次の優先順位が示されている。
①既に保有している翻訳
②対応外国出願の英文
③外国特許庁が作成した英文又は要約
④機械翻訳
⑤全文翻訳を提出できない場合の関連性の簡潔な説明
機械翻訳も利用可能であるが、重要案件の中核的な先行技術や、機械翻訳で誤訳が生じやすい技術分野については、人による正確な全文翻訳を検討すべきである。
特に、クレームとの関係で不利な部分を省略した部分翻訳は、不公正行為を基礎付ける事情となり得るため、避けるべきである。
9 権利行使予定がなくてもIDSは必要である
情報開示は、権利行使の予定とは無関係に連邦規則上の義務である。
将来、相手方から訴えられた際の反撃特許となる可能性がある。
ライセンス交渉で特許の有効性・信頼性が評価される
不公正行為の影響が関連特許・ファミリーに波及し得る
義務違反について、発明者、企業担当者、代理人等の個人の行為が訴訟で検証される
最も有用な提案は、「全部提出」か「ほとんど提出しない」かという二者択一を避け、組織的な選定基準と記録制度を構築することである。
特に企業実務では、次の運用が考えられる。
関連する国内外出願、規制当局資料、訴訟資料を横断的に確認する
X文献・Y文献は原則提出とする
A文献、サーチヒット文献、累積的文献は、関連性と累積性に基づき選別する
外国特許庁の通知を受領したら、3か月以内の提出を原則とする
不提出理由を統一様式で保存する
権利行使又はライセンス交渉の前に、不提出文献を再確認する
誤りを発見した場合には、隠蔽せず、費用がかかっても速やかに訂正する。
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